ヒッピー、クラブ、そしてワイン❷
2020.04.29
イビサ島のワイナリーをもう一つ訪ねてみましょう。〈カン・リック〉は、島に4つある商業ワイナリーの中で最大の自社畑(19ha)を所有。島でオーガニック認証を受けた最初の生産者でもあります。
案内してくれたのは2代目オーナーのステラ・ゴンザレスさん、「当社は私の義母によって1997年に設立されました。ブドウ畑を拓いたのは99年。最初から有機栽培です。初ヴィンテージは2000年。現在は21haのブドウ畑に在来品種と国際品種の両方が植えています。この他に17haのオリーブ林があります」
ステラ・ゴンザレスさん。
ブドウ畑を見て回るスタッフ。21haをステラさん夫妻含め、8人で管理している。
ロゴマークの入った熟成樽。
ブドウ畑を望むワイナリーのテラスに、〈カン・リック〉のプロダクツがズラリと並べられていました。ワインは赤・白・ロゼ・泡。その他、イビサ伝統のハーブ・リキュール「イエルバス・イビセンカス」、これにコーヒーを加えた「イエルバス・デ・カフェ」、ブランデーとラムにコーヒー、レモン果皮、シナモンを漬け込んだ「カフェ・カレタ」、プレミアム・ベルムース(ベルモット)。オリーブオイルとハーブ塩もあります。
ワインからリキュール、オリーブオイル、塩まで。
オリーブはアルベキーナ、ピクアル、オヒブランカの3品種を栽培。
イビサの自然海塩を使った加工品。左から、ワインソルト、ヴィネグレット入り、オリーブの実入り、レモンソルト。
「美食には料理だけでなく、ワインなどのお酒も含まれるということを忘れてはなりません」とステラさん。ここの製品だけで、長大なディナーのコースのドリンクリストが十分に組めそうです。
現在、ワインの売り先の80%がイビサ島内であるとのこと。残りの20%はドイツ、オーストリア、スイスなどに輸出。これらの国々はイビサへのツーリストが多い国々です。つまりこの島を訪れて、地元のワインを知った人が自国に戻ってから「思い出のワイン」を買う、そういうマーケットがあるということでしょう。僕はこのコラムでも何度か「ワインと旅は親和性が高い」と主張してきましたが、ここでもその確かな証左が見られたのです。
ワインを飲んでみましょう。 「カン・リック ブランコ2018」は、マルヴァジアとシャルドネのブレンド。カリンの砂糖漬け、リンゴの蜜、トロピカルフルーツ、蜂蜜などを思わせるリッチな香り。石のミネラル感もあって、華やかさと厚みが同居しています。アルコールが11度と低めなので、ホテルのテラスやプールサイドで明るいうちから飲むのにいいかもしれません。
明るいエチケットが地中海の空気によく似合う。
「エレソ2018」は、マルヴァジア100%の白。樽で発酵を行い、澱と共に2カ月間寝かせたテクスチャのあるワイン。桃やアプリコットの香りにバニラが交じります。グリルしてハーブを効かせた白身魚や甲殻類、こってりとクリーミーな白身肉の料理に合いそうです。 「ベス・ロサード2018」は、モナストレル100%のロゼ。白桃の果皮を噛むような甘苦いトーンが印象的です。赤い果実と塩っぽさも感じられます。口の中ではリコリスやフェンネルシードの風味も。ワイン自体に「ご馳走」なイメージがある、極めてフードフレンドリーなロゼです。
「ベス・ロサード2018」。
おまけに、ハーブ・リキュール「イエルバス・イビセンカス」のコメントも書いておきましょう。ローズマリー、タイム、ラベンダー等々、17種類のボタニカルを漬け込んだイビサの伝統的なディジェスティフです。
左が「イエルバス・イビセンカス」。
「カフェ・カレタ」。これもイビサ伝統の食後酒。冷やして飲む。
世界中にこの手の酒があり、僕も随分とあちこちで名品・珍品を試しましたが、「イエルバス・イビセンカス」は味も良く、また消化促進効果に優れていることも我が身を持って実証することができました。さすがは古くからのリゾートの酒。その品質向上のベースには鯨飲馬食するツーリストたちの切実なニーズがあったのでしょう。僕もイビサ滞在中はたらふくの食事を終えるたびに、このリキュールを飲むのが楽しい習慣になりました。
つづく
Photographs by Yasuyuki Ukita
Special Thanks to Cámara de Comercio Hispano Japonesa(日西商工会議所)