SALON COLUMN

ヒッピー、クラブ、そしてワイン❶

2020.04.25

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ヒッピー、クラブ、そしてワイン❶

イビサ島と聞いて、すぐにヒッピーを連想するのは40代後半以上の人たちでしょうか? 同じ島の名前が少し下の世代の人にはクラブカルチャーの聖地として響くかもしれません。



ヒッピー文化を想起させる看板。



ワインと会話を楽しむツーリスト。



地中海の青!


スペイン領バレアレス諸島に属するイビサ島は歴史あるリゾートアンランドです。1970年代にはヒッピーカルチャーの聖地として、また80年代以降はクラブカルチャーの発信地として、世界にその名を響かせてきました。今なお「イビサ」という地名は、特に欧米の人々にとっては、「バカンス」「リラックス」「自由」「華やか」「享楽」「頽廃」と同じ響きを持ちます。
イビサの南6kmの海上に浮かぶ、フォルメンテーラ島も近年ツーリストが増え、スペイン本土からの直行船も航行するようになりました。



リゾートファッションの発信地でもある。



イビサ港から早朝の船出。


約2700年前にフェニキア人が港を建設したことに始まるこのイビサの歴史は、まさに地中海世界の覇権争いの縮図でした。ギリシャ、ローマー帝国、ビザンチン帝国、イスラム諸国、アラゴン王国‥‥様々な権力と文明がこの島を支配し、それぞれの色に染めてきました。イビセンカス(イビサっ子)たちは、支配されながらも、異なるカルチャーを吸収し、ライフスタイルに取り込んできました。食文化ももちろん例外ではありません。



地元のシャルキュトリー色々。手前から、ソブラサーダ、ブティファラ、ブイネグラ。



ハーブリキュールの伝統はアラブの文化から。



塩田で作られた塩の山。製塩は古くからの島の産業。


基礎知識はこの辺にして、ワインの話をしましょう。古くからイビサ・フォルメンテーラには在来品種のブドウによる自家消費用ワイン造りの伝統がありました。



発酵が始まったモストに櫂入れを行う。


20世紀の前半には、バルクワイン(大量生産の安価なワインにブレンドする原料ワイン)の生産をする造り手もありましたが、きちんとボトル詰めされ、国際的な評価に堪える、いわゆるクオリティ・ワインの生産が始まったのは1990年代後半と、つい最近のことです。現在、イビサ島では4つ、フォルメンテーラ島では2つのワイナリーが操業しています。



〈ボデガ・イビスクス〉のエントランス。イビスクスはハイビスカスのこと。


イビサ島の〈ボデガ・イビスクス〉は、ディレクターのヘンリック・スミス氏によると、2007年に2人のスイス人、フランス人、イギリス人の計4人の投資家によって立ち上げられました。
コンセプトは明確です。

  • ・イビサのワイン造りの伝統に敬意を表し、在来品種の使うこと
    • ブドウは同社と契約を結ぶ65の栽培農家から調達しています。
  • ・近代的な醸造を行うこと
    • ワインメーカーにスペイン北部沿岸の銘醸地リアスバイシャスからダビ・ロレンソ氏を招聘しました。
  • ・ロゼワインに特に注力すること
  • ・厳格にエコロジカルな工程でワインを造ること


ブドウ栽培は100%有機農法で行われています。

オーガニックは、ヒッピー文化とも親和性が高かったことから、この島の多くの農家が実践しています。

ここでいう在来品種とは、黒ブドウのモナストレルと白ブドウのマルヴァジア・グレクを指します。いずれもメインランドに同名の品種がありますが、長い年月をかけて変異していて、独自のキャラクターを持つといわれます。ワイン造りの近代化が遅れたことが逆に幸いして、島には貴重な古木も残っています。



ロゼ3種。真ん中が代表銘柄の「イビスクス・ロゼ」。


〈ボデガ・イビスクス〉では白、赤、ロゼ合わせて7アイテムを生産していますが、そのうちロゼが3アイテムを占めます。これは世界中のワイナリーを見回しても極めて珍しい商品構成と言えます。しかも、通常ロゼワインはフレッシュさを身上とし、若いうちに消費されるワインとして造るものですが、ここでは2年、3年と熟成をすることができるように造っています。



地中海の島にはロゼがよく似合う。


フラッグシップで生産量の65%を占める「イビスクス・ロゼ2018」は、深みのある花の香りに、チャーミングな赤い果実と柔らかなハーブの香りが交じります。約10%を樽熟成してブレンドしたことでコクが出て、それが味わいを豊かにしています。口中を洗うようなフレッシュ感も共存。食事を誘うワインだと感じました。紙のラベルを貼るのではなく、ガラスに透かし彫りを施すボトルデザイン、コルクではなくガラス製の栓、いずれもイビサの高級レストランやパーティーシーンに置かれることを念頭に置いた演出です。

ロゼに注力する理由について、スミス氏は「イビサのビーチで楽しんでもらうのに、もっともふさわしいのはロゼワインだからです」と答えます。事実、イビサ・フォルメンテーラのワイン産業の強みは、地元に大きな消費地があることです。〈ボデガ・イビスクス〉のワインは全製品の55%が島内で消費され、そのうちの80%が夏場、つまりバカンスシーズンに売れてしまうそうです。



「イビスクス・ティント2017」。


ロゼ以外で出色なのはモナストレル100% の赤「イビスクス・ティント2017」でした。海辺に近い砂地土壌の6つの異なる畑で栽培された、樹齢60年〜90年の古木のブドウを別々に醸造し、ブレンドして造ったもの。スモーキーなトーンの奥からセンチメンタルな気分をもよおす熟れた赤い果実が香ります。紫蘇を思わせるハーブ香、黒糖のニュアンス、きめ細やかなタンニンとフィニッシュに残るモカの風味。モナストレル(ムールヴェードル)の既成概念を覆すような、素晴らしいワインです。

初年度は5000本だった同社の生産量は2018年には90000本と18倍に拡大。今後は輸出にも力を入れていくと、スミス氏は言います。2020年初頭から日本へも輸出されるようになりました。



夜明けのイビサ港。



カフェの開店準備。


(つづく)


Photographs by Yasuyuki Ukita
Special Thanks to Cámara de Comercio Hispano Japonesa(日西商工会議所)




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