真冬にシャブリを➓
2020.04.13
ブドウの収穫を早めに行って「ピュア」を追求する〈ドメーヌ・ウィリアム・フェーブル〉に対して、ブドウがしっかりと熟してから収穫するようにしているのが〈ドメーヌ・フレイ〉です。
ドメーヌ兼住居を示すプレート。
スラン川左岸、コート・ド・レシェとヴァイヨンという2つの銘醸プルミエ・クリュに挟まれたミリー村にこのドメーヌはあります。1813年に建ったというメゾンで4代目のマリー=ジョゼ・フレイさんに話を聞きました。マリー=ジョゼさんは兄のジャン=リュックさんと兄妹でドメーヌを切り盛りしています。
19世紀前半の建物。
グラン・クリュが眠る樽の前に立つマリー=ジョゼさん。
「先代まではワインの大半をネゴシアンに売っていましたが、92年に兄が継承してからは元詰め(自社ラベル)を増やし、現在ではそちらが主力になっています。曽祖父と祖父の時代には樽だけで醸造を行っていました。1960年代、父の時代にコンクリート製のタンクを導入しました。今は、発酵は全て温度調節のできるステンレスのタンクで行い、グラン・クリュとプルミエ・クリュの一部の熟成に500ℓ入りの樽を使っています」
地下のカーヴ。
様々な容量のステンレスタンクが揃う。
自社畑の総面積は25ha。このうち14haがシャブリ、7haがプルミエ・クリュ(6つのプルミエ・クリュに畑を所有)、15aがグラン・クリュ(ヴォーデジール)とのこと。
肝心の収穫のタイミングについて訊いてみました。
「収穫時には2度のサンプル採取を行い、それを分析して、十分にブドウが熟し、尚且つ補酸をする必要のないタイミングを見極めます。2018年の収穫は9月5日に始めましたが、シャブリでは最も遅い方でした」
他の造り手で彼らと同じように遅めに収穫を行うのは、〈ジャン・エ・セバスチャン・ドーヴィサ〉〈ドメーヌ・ジェラール・デュプレシス〉などとのこと。いずれもクラシックなスタイルと言われる造り手たちです。
造りを担うジャン=リュック・フレール氏。
テイスティングは「プティ・シャブリ2017」から始めましたが、マロングラッセのようなコクと旨みがあり、のっけからブドウの成熟が感じられました。
水色(すいしょく)も成熟の色合い。
プルミエ・クリュは、2017年のコート・ド・レシェとヴァイヨンを比較。前者はバタークッキー、レモンピールの冷涼なトーンに際立つミネラル感が伴い、いかにも石灰質土壌のワインという印象。一方後者は、熟れきった黄色い果実の香りが退廃的で、粘土質土壌の特徴が勝っていました。
プルミエ・クリュは4種類を元詰めに。
「グラン・クリュ ヴォーデジール2016」は、白い花や蜂蜜の香りに混じって、熟れたアプリコットのような微笑ましいトーンが。
右が「グラン・クリュ ヴォーデジール2016」。
全体を通じて大らかで、ふくよかな感じは前回の〈ウィリアム・フェーブル〉のシュッとした感じとは正反対と言えます。しかし、両方共に魅力的であることに間違いはなく、それこそがシャブリの本領であり、そこに人の考え方がそれぞれに反映されて、彩りを加えているに過ぎないのだと思いました。
今回のシリーズ中、何度も引いてきたエリック・サブロウスキ氏の言葉、「シャブリの造り手はクリエーターではなく、トランスレーターなのだ」という言葉の真意にまた少し近づくことができたかもしれませんね。
(つづく)
Photographs by Taisuke Yoshida
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)