SALON COLUMN

真冬にシャブリを❽

2020.01.21

086

真冬にシャブリを❽

シャブリのドメーヌを何軒か訪ねてみましょう。



ドメーヌの周辺にはまだ朝霧の名残が。


〈ドメーヌ・ジェラール・デュプレシ〉は、シャブリではまだ少数派のビオ(有機栽培)認証を持つ、家族経営のドメーヌです。5代目のリリアン・デュプレシ氏は物静かで飾らぬ印象。出会ってすぐに我が道を行くタイプであることがわかりました。一度はシャブリを離れていましたが、2000年に家業を手伝うために戻り、07年を最後に父ジェラールさんが引退した後は、彼がドメーヌを切り盛りしています。



5代目リリアンさん。


所有するブドウ畑は10ha。4つの格付け全てを生産しています。ビオの認証を受けたのは2013年。シャブリの年間降水量は約670mmと、世界のワイン産地の中では極端に多くもなく少なくもないといったところでしょうか。それでも雷雨が多いこともあり、べと病などカビ系の病害のリスクが高く、有機栽培を実践することが難しいとされています。農法について訊ねると多くのドメーヌが「リュット・レゾネ(減農薬農法)」だと答えます。そんな中、リリアンさんはなぜあえてリスキーなビオを実践しているのでしょう?



栗の樹皮が巻かれた熟成樽。ショックアブソーバーの役割を果たす。


「ビオでもリュット・レゾネでも、畑でやらなければならない仕事に大きな違いはないんだ。しかし、リュット・レゾネでは消費者に何も訴えかけることができない。それに、元々祖父の時代にはビオでやっていたんだし、いわば原点回帰するだけ。将来のことを考えると、農薬は使わないに越したことはないしね」

将来、つまり次世代にわたって、畑が健全であることと引き換えに、リリアンさんは不作のリスクを取ったわけです。現に2017年はプティ・シャブリの収穫がゼロに終わってしまったそうです。



キンメリジャン地層から出てきたアンモナイトの化石。


ワインを試飲させてもらいましょう。「シャブリ・プルミエ・クリュ ヴォーグロー2017」は、白い花にジンジャーの香りが交じります。軽快ですが複雑味もあり、食欲を刺激します。ヴォーグローはシャブリ市街の南、スラン川左岸と右岸の中間に位置し、粘土質の強い土壌であるとのこと。このアペラシオン名で瓶詰めしている生産者は4、5軒のみというマイナーな地区ですが、こういうワインと出会うのもシャブリを飲む楽しみです。

つづく「シャブリ・プルミエ・クリュ モンドミリュー2017」と「シャブリ・プルミエ・クリュ ヴァイヨン2017」の2つは、面白い飲み比べとなりました。モンドミリュー(右岸、南向き)はティンパニーを口の中で鳴らされるようなミネラル感があり、香りはやや閉じて無愛想ですが、古い木の皮を嗅ぐような独特の深みがあります。口の中ではグイと口蓋を押すような力感が。一方でヴォイヨン(左岸、南東向き)は輝度のある黄金色も目覚しく、トロピカルフルーツや蜂蜜のトーンがあります。前者が「陰」なら後者は「陽」。いずれもスケール感があり、交互に飲んでいると、ナダルとフェデラーのラリーのように、いつ終わるともしれぬ世界が展開しそうです。



「シャブリ・プルミエ・クリュ モンマン2015」。リリアンさんのお父さんの時代には収穫が今よりも2週間くらい遅かったという。


「シャブリ・プルミエ・クリュ モンマン」の試飲は2017からスタートし、16、15とヴィンテージを遡りました(モンマンは左岸、南東向き)。17は和の柑橘にヨードのトーンが交じり、口の中でも塩っぽさが感じられます。16は熟れたリンゴにバターのトーンが交じって、開いた印象。15は蜂蜜、ドライフラワーの香りにきな粉のような独特のトーンが交じり、香り全体にボリューム感があります。口の中では土っぽいミネラル感が満ちます。

試みに、ブルゴーニュ白のヴィンテージチャートを参照すると、2017年は「秀逸な年」、16年は「良年」、15年は「平凡な年」でした。しかし、シャブリでは16年は遅霜と雹の影響で厳しい年だったようです(7月、8月は暑くて乾燥した)。そのせいか、「モンマン2016」については、少し熟成の進行が早すぎるかなと思いました。僕はかねがね「不作年にこそ、造り手の技量と心意気が出る」と信じています。また、特に若いうちに飲む場合には、不作年のワインのほうが、その土地やその年の天候の特性をわかりやすく感じられると思っています。その観点から見ると、15と16の対比はとても面白く、また17が良作年の本領を発揮するのはまだ先のことかなと感じました。



1895年の創業時から使われている地下の熟成庫。


〈ドメーヌ・ジェラール・デュプレシ〉では、プルミエ・クリュは全て同じアプローチで醸造を行っていると、リリアンさんは言います。そうやって、土地と天候を正確に「トランスレート」しているのだなと僕は理解しました。有機栽培がそれに一役勝っていることは容易に想像がつくところです。
(つづく)

**クレジット
Photographs by Taisuke Yoshida
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)




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