真冬にシャブリを❼
2019.12.23
シャブリ・プルミエ・クリュ(1級)は40カ所あり、生産量はシャブリ全体の15%を占めます。日本での小売価格の目安は5,000円〜8,000円程度。
認定区域内であれば、あちこちの畑からブドウを持ってきて醸造しても良いシャブリやプティ・シャブリと違って、プルミエ・クリュとグラン・クリュ(特級)は限定された畑のみのブドウで造らなくてはなりません。その分、ワインは特定の畑の個性を強く表すことになります。
前回も掲載した地図を、ここでもう一度見てもらいましょう。
プルミエ・クリュはスラン川の両岸に点在(資料提供:BIVB)。
濃いオレンジ色に塗られた部分がプルミエ・クリュです。スラン川の左岸・右岸にほぼ均等に広がっていますね。この地図ではやや分かりにくいかもしれませんが、プルミエ・クリュのほぼ全てが南東向き、もしくは南向きの斜面にあります。
冒頭で「プルミエ・クリュは40カ所」と述べましたが、厳密に言うと、その中に17の「大きな名前」があり、一部の「大きな名前」の下に23の「小さな名前」があります。ややこしいですよね。例を挙げると、「モンマン」という広い括りのクリマの中に「フォレ」「ビュトー」という狭い括りのクリマがあります。親が17人、子供が23人と覚えておきましょう。
〈アラン・ジョフロワ〉の「シャブリ・プルミエ・クリュ ヴォー・リニュー2016」。ヴォー・リニューはシャブリの西端に位置し、ボトル詰めしているドメーヌは3軒のみというマイナーな1級畑だ。グレープフルーツの香りを持つ清冽な味わい。
〈アラン・ジョフロワ〉の私設博物館に展示されたコレクション。
40の名称を一気に覚えるのは至難のわざだと思います。主なものとその一般的な特徴を挙げておきます。
右岸:
フルショーム(フローラル、やわらか、エレガント) モンテ・ド・トネール(パワフル、しっかりしたボディ、ミネラル感) モン・ド・ミリュー(梨やアプリコット、ヨード、白い花)
左岸:
コート・ド・レシェ(フローラル) ヴァイヨン(開いている、トロピカルフルーツ) モンマン(塩っぽさ、酸、ナッツ、蜂蜜香)
「日本人はフルショームを好む」と、何人かの生産者から聞きました。
〈ル・ドメーヌ・ダンリ〉は“シャブリの帝王”の異名をとるミシェル・ラロッシュ氏がオートクチュール・シャブリを造るために立ち上げた小さなドメーヌ。「シャブリ・プルミエ・クリュ フルショーム ヴィエーユ・ヴィーニュ2016」は樹齢50年の古木の果実から造られた逸品。熟した果実のトーンにうっとり。
左岸のプルミエ・クリュ、ボーロワの畑から。
しんがりはシャブリ全体の生産量のわずか1%に過ぎない「シャブリ・グラン・クリュ」(特級)です。
〈ドメーヌ・ラロシュ〉がシャブリの中心部で営む宿の2階テラスからはグラン・クリュの畑を一望することができます。ワイン好きにとっては「聖なる眺め」と呼びたくなるような、説得力のある眺望です。
〈ドメーヌ・ラロシュ〉の経営する宿〈ロテル・デュ・ヴュー・ムーラン〉のテラスからグラン・クリュのブドウ畑を望む。
グラン・クリュは、生産量にしてシャブリ全体の1%のみ。栽培面積で言うと、シャブリ全体で約6800haありますが、グラン・クリュは約100haです。日本での実勢小売価格の目安は10,000円以上とさすがに高額です、が、ブルゴーニュの同格のものと比べるとかなり「現実的な価格」と言えると思います。
7つあるグラン・クリュの畑は、シャブリの町の北側の、南向き及び南西向きの斜面に集中しています。7つはそれぞれに土壌や勾配、地勢が微妙に異なり、ワインにもその違いがキャラクターの違いとなって出ます。全てに共通するのは日当たりの良さです。冬場、雪が積もった後、真っ先に解けて地面が露出するのがまさにグラン・クリュの斜面です。シャブリが冷涼な産地であったことを今一度思い出してください。7つの名称と一般的な特徴をごく簡単にまとめておきます(東から西への順に)。
ブランショー(若々しさ、フィネス)
レ・クロ(パワフル、厳格)
ヴァルミュール(リッチでふくよかな果実味)
グルヌイユ(フィネス、バランス)
ヴォーデジール(丸み、洗練)
レ・プリュース(華やぎ、エレガンス)
ブーグロ(アーシー、パワフル)
ヴォーデジールからグルヌイユにかけての夏の風景。
この7つに序列をつけるのは難しく、またそれは野暮なことだと思います。7人7色。飲み手が好みとオケージョンとで選べば良いと思います。参考までに述べておくと、レ・クロは「シャブリの王」、レ・プリュースは「シャブリの女王」と言われます。ジェンダーについてセンシティブな今日、こういう喩えをするのは不適切かもしれませんが、分かりやすい喩えではあると思います。
こちらは冬の風景。左岸から市街地越しにグラン・クリュの畑を見晴らす。右の教会の奥の斜面がレ・クロ。
2つの上級格付けの話題は次回に続きます。
(つづく)
Photographs by Taisuke Yoshida,
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)