SALON COLUMN

真冬にシャブリを❻

2019.12.23

083

真冬にシャブリを❻

シャブリの4つの格付けについて、深掘りしていきましょう。まずは下のチャートを見てください。



AOCは「原産地呼称」のことで、ワインの場合はブドウ品種、栽培、醸造に厳格なルールを定めることによって、産地の名称を守る(資料提供:BIVB)。


シャブリ全体の生産量の3分の2を占める「シャブリ」と、5分の1を占める「プティ・シャブリ」からお話ししていきます。次の地図を見てください。



グラン・クリュ(特級)はシャブリの町の北東側に集まっている(資料提供:BIVB)。


明るいオレンジ色に塗られた「シャブリ」とマスタード色に塗られた「プティ・シャブリ」が産地の大半を占めている様が視覚的にもよく理解できると思います。シャブリの町やスラン川から見ると、比較的近くに「シャブリ」が、周縁部に「プティ・シャブリ」の地域が広がっていますね。2つの違いは端的に土壌の違いです。このシリーズの2回目にお話ししたキンメリジャン土壌のことを覚えていますか? このキンメリジャンが優勢な土地が「シャブリ」に、そうでない土地が「プティ・シャブリ」に分けられているのです。「プティ・シャブリ」の土壌はポートランディアン(*1)と呼ばれ、キンメリジャンよりもやや新しい年代のものです(近年、シャブリの畑が拡張された際に、一部ポートランディアン土壌の土地も「シャブリ」に認定されている)。



左からオーテリビアン(ブドウ栽培には不適とされる)、キンメリジャン、ポートランディアン。


土壌の違いから、両者の間にはワインの味わいにはっきりとした違いが見られます。引き締まった印象の「シャブリ」に対し、「プティ・シャブリ」は、好意的に言えば優しい味わい、率直に言うならややボンヤリした味わいになります。こう言うと、まるで「プティ・シャブリ」が2級品のように聞こえるかもしれませんが、だとしたら、それは謂れなき汚名と言うべきことです。軽快で親しみやすい「プティ・シャブリ」には、上位格付けのワインとは別の魅力があり、ニーズがあると思います。「シャブリ」よりも500円〜1000円ほど安い価格も魅力です(日本の実勢小売価格は「シャブリ」が3000円前後であるのに対し、「プティ・シャブリ」2000円〜2500円)。



食事の最初に軽快なプティ・シャブリを飲むというのは良いアイデアだ。


ワインショップやスーパーマーケットの棚で目にする機会が最も多い「シャブリ」についてまとめておきましょう。



「ドメーヌ・セギノ=ボルデ シャブリ2017」。シャブリで最も古くからの造り手のひとつ。設立は1590年。


若い「シャブリ」は淡い黄金色をしています。ものによっては色合いにややグリーンを帯びることも。香りはレモンやライムの果汁や果皮、白い花を中心に、青リンゴ、蜂蜜、ハーブ、干し草などを感じさせることもあります。際立つミネラル感は香りからも感じられ、その香りは火打ち石に喩えられることも。派手でも刺激的でもありませんが、芯がしっかりとしていて、浅薄ではありません。辛口でありながら舌先をチャーミングな甘みが撫で、飲み手の気をそそります。熟成によって、色調は山吹色を帯びてきます。キノコやナッツ、ヨードの香りは「シャブリ」が順調に熟成した証拠です。

伸びやかな酸を持ち、ミネラル感に富む「シャブリ」はフードフレンドリーなワインです。ハーブやキノコを使った前菜やサラダから、クリームを使ったパスタ、シーフードからホワイトミート、チーズまで守備範囲は広く、「シャブリ」だけでコース料理を通すことも可能です。



アスパラガスの前菜。



シーフードを合わせるのは王道だが‥‥。


子牛のリドヴォーにタップナードを添えたもの。こういうものまで合わせられる懐の深さが「シャブリ」にはある。



チーズにも「シャブリ」。ボトルは、ヴァン・ナチュールの騎手、トマ・ピコ氏の「パット・ルー シャブリ2015」。


「シャブリと言えば生牡蠣」が定説のように言われますが、僕はそれには異論があります。生牡蠣にシャブリが全く合わないとは言いませんが、もっとバッチリ合うワインが他にたくさんあるのです。キンメリジャンに牡蠣の仲間の化石が見られることが「シャブリ❤︎生牡蠣」の根拠になっていますが、ひいき目に見ても、あれはせいぜいアサリの幼生がいいところ、とても牡蠣には見えません。



キンメリジャンを改めてよく眺めてみよう。


同じ牡蠣殻土壌ならボルドー南部のサント・クロワ・デュ・モン(高級貴腐ワインで知られるソーテルヌとは川を挟んで対岸の位置にある)の土壌の方が、我々が今日食べている牡蠣とそっくりの貝殻化石を含んでいます。そこで造られる甘口白ワインこそは生牡蠣との相性がドンピシャです。「生牡蠣に合うワイン」というテーマで議論すると、本1冊分の見解が出てくるでしょう。いつか、このテーマでもまとめてみたいと思っています。



サント・クロワ・デュ・モンの牡蠣殻土壌と甘口ワイン。


「シャブリ」と合わせるなら、牡蠣は生ではなく、蒸すか、殻ごと焼くかして、塩を振り、レモンを搾ったものの方がいいと僕は断言できます。クリームを使った牡蠣チャウダーと少し熟成を経たシャブリなら申し分ないでしょう。



〈ドメーヌ・ゲゲン〉は、シャブリにおけるビオの先駆者、〈ジャン・マルク・ブロカール〉から出たカップルが立ち上げた新しいドメーヌ。


シャブリを訪ねるたびに食べるのを楽しみにしている郷土料理が2つあります。1つは、シュークリームのシューのような形をした、チーズの香り高い前菜、グジェール。同じものがブルゴーニュにもありますが、シャブリの方がサイズがひと回り大きいようです。もう1つはアンデュイエット。豚の腸に豚の肉や内臓、ハーブやスパイスを詰めた腸詰めの一種です。味にも匂いにも独特のクセがあるのですが、これを食べないとシャブリに来た気がしないのです。「シャブリ」は、グジェールにもアンデュイエットにも合います。地酒には地元の料理が合う、という鉄則の好例だと思います。



グジェール。塩気とチーズの風味が「シャブリ」とマッチ。



シャブリの町のシャルキュトリー屋で。左の棒状のものがアンデュイエット。


次回は、より上位の格付けについて見ていきましょう。 (つづく)

**注釈
*1 国際的には「チトニアン」と呼ばれている。「ポートランディアン」はいわば“方言”。この年代の地層の研究が行われたイギリス南部の地名「ポートランド」にちなむ。


Photographs by Taisuke Yoshida, Yasuyuki Ukita
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会), Yuichi Sakamoto




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