真冬にシャブリを❺
2019.12.10
「ブドウ品種はそれぞれの寒冷限界で最高のパフォーマンスを発揮する」という話からでしたね。試みにいくつかのワイン産地(中心都市、もしくは最寄りの都市)の緯度を並べてみましょう。
ウェスト・チルティントン(イギリス) 50度95分
フランクフルト 50度06分
ランス(シャンパーニュ) 49度15分
シャブリ 47度46分
ボーヌ(ブルゴーニュ) 47度00分
ボルドー 44度50分
札幌 43度03分
ホバート(タスマニア) 42度52分(南緯)
ナパ 38度18分
勝沼 35度40分
海流の影響、海沿いか内陸か等々、様々な要素が絡んでくるので一概に緯度が高いほど冷涼とは言えませんが、一つの参考として見てみてください。
暮れなずむブドウ畑。この時点で既に気温は氷点下に。
ヨーロッパでは、今でこそ地球温暖化の影響でイギリス南部でもある程度シャルドネが熟すようになりましたが(ウェストン・チルティントンは、イングリッシュ・スパークリングワインの代表格〈ナイティンバー〉のブドウ畑があるところ)、少し前までシャルドネ栽培の北限はシャンパーニュ地方でした。但し、シャンパーニュでは質の良いスティルワインを造るほどにはブドウの糖度が上がりません。そこを何とかしたいという思いが「ドサージュ(糖分添加)した発泡酒」という製法を生み出したのです。言わば苦肉の策ですね。ドイツでシャルドネ栽培が認められたのは1991年のこと。ということは、ほんの30年ほど前まではシャルドネによるスティルワインを造る土地の北限はシャブリだったということができるのです。キリリと引き締まって端正で精妙なシャブリの味わいは、シャルドネ栽培の北限という、スリリングな立地が生み出していたというわけです。
〈ドメーヌ・ラロッシュ〉に保存されている13世紀のプレス機。この時代は町に1つしかない大変大切なものだった。
今回の取材中、セーターにダウンジャケットという服装で、何度か真冬のブドウ畑に立ちましたが、骨の髄まで凍ってしまいそうな、まるで何かの懲罰のように手厳しい寒さに打ちのめされました。シャブリでは、霜害を防ぐためにブドウ木に水をかけてわざと凍らせると言います。氷で枝を覆うことで内部が氷点下になるのを防ぐのですが、何とも凄まじい話です。ちなみに霜害が起こるのは冬ではなく、ブドウ木が芽吹く春です。
霜害対策の散水。ブドウの新芽にわざと氷を付けることで凍死を防ぐ。©︎ BIVB
散水によって氷が付いた新芽。©︎ BIVB
もうひとつの霜害対策、ショフレット(加熱器)。火を焚いて霜が降りるのを防ぐ。©︎ BIVB
シャブリは行政区画上「ブルゴーニュ」に入れられていますが、コート・ドールの中心地ボーヌからは北へ100kmほども離れた「飛び地」になっています。シャブリのブドウ畑の総面積は6800ha。347軒のドメーヌ(ワイナリー)があり、年間3170万本のワインが生産されています(ブルゴーニュで生産されるワインの16%に当たる)。
ワイン法の定めるところにより、シャブリは以下の4つのカテゴリーに格付けがなされています。
シャブリ・グラン・クリュ
シャブリ・プルミエ・クリュ
シャブリ
プティ・シャブリ
ザックリ言うと、上に行くほど上質で高級ということになります。この格付けが厳正かつ的確であることもシャブリの大きな特徴です。例えば、有名なボルドー・メドックの格付けのように、「あのシャトーは第4級だけど、実質的には第2級の実力がある」というようなややこしいことはシャブリにはありません。これは飲み手にとっては大変ありがたいことです。
寒さで頰を染めて剪定作業をする〈コリーヌ・エ・ジャン=ピエール・グロッフ〉のエヴァさん。
〈コリーヌ・エ・ジャン=ピエール・グロッフ〉の「プルミエ・クリュ レ・フルノー2016」(左)と「シャブリ キュヴェ・ラ・パール・デ・アンジュ2015」。いずれもミネラル感が際立ち、キレがある。
次回はそれぞれのカテゴリーを詳しく見ていきましょう。
(つづく)
Photographs by Taisuke Yoshida,
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)