真冬にシャブリを❸
2019.11.25
今回は厳寒のブドウ畑をしばし離れ、屋内で暖を取りつつ「シャブリの肉体」と言うべき、極めて大切なもの──シャルドネ──について学んでいきましょう。
果粒が膨らみ始めたシャルドネ。
前回お話ししたように、シャブリとは、「シャブリの町とその周辺の特定のエリアで、シャルドネという品種のブドウのみで造られる白のスティルワイン(スパークリングでもなければ酒精強化ワインでもないワイン)」です。これは産地と呼称を守るための法律によって定められたルールです。つまり、シャブリ以外の土地でシャブリっぽい白ワインを造ってもシャブリとは呼べないし、シャブリの地域内でシャルドネ以外のブドウで白ワインを造ってもそれをシャブリと呼ぶことはできないということです。
収穫されぬまま冬を迎えた房。
たった1つの品種から造る白ワインだけがその名を名乗ることを許される銘醸ワイン産地を僕は他に知りません。シャルドネ抜きにシャブリは語れない、いや、それどころかシャルドネ抜きにはシャブリは存在し得ないと言えると思います。
〈ドメーヌ・ド・ラ・ムリエール〉のマリー・ラロッシュさん。
シャブリにとって「運命の恋人」と言えるシャルドネとは一体どんなブドウなのでしょう?
熟成が進んだシャブリは濃い黄金色を呈する。
人は人生の後半になると自分のルーツやファミリーの来歴について知りたくなるようです。僕が最近、各ブドウ品種の辿った歴史に惹かれるのも同じ心理が働いているのかも知れません。シャブリの町から100kmほど南に行ったところに「シャルドネ」という名の村があって、ここがシャルドネ種の故郷とされています(シャルドネの故郷はレバノンだという異説もある)。最近は遺伝子研究が進んで、ある品種がどういう交配で誕生したかを正確に突き止めることができるようになりました。カリフォルニア大学デービス校の遺伝学者メレディス博士によるDNA鑑定で、シャルドネの両親はピノ・ノワールとグーエブランだと判明したそうです。グーエブランは名前からして白ブドウであることは想像がつきますが、どんなブドウなのか僕は寡聞にして知りません。ある資料によると、いわゆる高貴品種(クオリティワイン用として優れた品種)とはほど遠いものであったらしく、昔からワインの原料にすることが認められていなかったようです。いずれにせよ、シャルドネはピノ・ノワールやピノ・グリ、ピノ・ブラン、ガメイ、アリゴテと同じ「ノワリアン種」の仲間です。
オーセールのレストラン「ル・ブルゴーニュ」でプルミエ・クリュのモンマンを注文。
シャルドネは比較的栽培が簡単で、収量が多く、糖分が高いブドウが穫れます。このブドウが冷涼地から温暖地まで世界中に広まった最大の理由がそこにあります。植えられた土地と醸造スタイルによって、全く別の顔を見せるのもこのブドウの大きな特徴です。シャルドネはブドウ自体の個性がないことが個性とも言えます。そんなシャルドネの特性を詩にしてみました。題して『個性のない女』。
あたしの名は、シャルドネ
人はあたしのこと
個性のない女だって言うのよ
でも、あたしの名はシャルドネ
どこの町に行っても
そこのカラーにバッチリ染まって
たくましく生きてみせるわ
そして、あたしは
少女になる、
魔女になる、
娼婦になる、
女王にだってなれる
だって、あたしの名はシャルドネ
人から個性がないって
言われた女
この詩に誰かが曲を付けてくれて、美川憲一さんにでも歌ってもらえたら‥‥というのは冗談ですが、この詩からシャルドネのイメージを膨らませていただけたらと思います。“個性のない女”ことシャルドネの話は次回に続きます。
〈ドメーヌ・ド・ラロッシュ〉の熟成庫で眠るグラン・クリュ ブランショーのワイン。
(つづく)
Photographs by Taisuke Yoshida,
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)