SALON COLUMN

真冬にシャブリを❷

2019.11.05

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真冬にシャブリを❷

シャブリの取材はいつもヴィンテージカーによるブドウ畑見学から始まります。1940年代デビューの名車シトロエン2CVを自ら運転してガイドしてくれるのは、シャブリ委員会公認エデュケーターのエリック・サブロウスキ氏。



エリックさんとシトロエン2CV。この車は農民の車として開発された。構想段階のコンセプトには「50kgのジャガイモか樽を載せることができるように」という項目があったという。


今回エリックさんが最初に連れて行ってくれたのは、スラン川左岸の丘に広がるブドウ畑でした。足もとにはまるで盆栽のように綺麗に枝を整えられたブドウ木が並んでいます。ブドウ畑は谷の傾斜に沿って町の直前まで続き、人家や教会の立つ平地で一旦途切れた後、また谷の向こう側の傾斜地に広がっています。空は低く、凍てついたような雲が次々と足早に過ぎ去っていきます。頬に当たる風が冷たくて、思わずダウンジャケットのジッパーを引き上げました。エリックさんの「ドライブ&ガイダンス」を基にシャブリのアウトラインを見ていきましょう。



町を取り囲むようにしてブドウ畑が広がる。


シャブリはフランス中東部、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏ヨンヌ県にあるコミューン(町)です。人口は2600人ほど。パリの南東約180kmに位置。車で走ると2時間ほどで着きます。町はなだらかな丘陵地に挟まれるかたちで、スラン川に沿った渓谷に開けています。ブドウ畑は市街地を取り囲むように広がっています。町の東側にある急斜面が最も重要なグラン・クリュ(特級)の畑になります。



馬を操って作業する人。


行政上シャブリはブルゴーニュの一部ということになっていますが、いわゆる「ブルゴーニュ」の中心であるコート・ドールからは100km以上も離れた“飛び地”です。シャブリの町とその周辺の特定のエリアで、シャルドネのみで造られる白のスティルワイン(スパークリングでもなければ酒精強化ワインでもないワイン)が「シャブリ」です。ワイン法上、シャブリには以下の4つのカテゴリー(格付け)があります。

⒈ シャブリ・グラン・クリュ(特級)
⒉ シャブリ・プルミエ・クリュ(一級)
⒊ シャブリ
⒋ プティ・シャブリ

この4つのカテゴリーについては回を改めて詳しくお話しします。



右奥のやや傾斜の強い当たりがグラン・クリュの畑。



夏場に取材した時の風景。上の写真と見比べてほしい。


シャブリを特徴づけるものの一つに「キンメリジャン」という独特の土壌があります。これはかつて海の底にあった1億5000万円前の地層が地殻変動で隆起して地表に露出したもので、エグゾジラ・ヴィルギュラという小さな貝のビッシリと詰まった化石がその証拠です。



左がキンメリジャン。右はポートランディアンという別の時代の土壌。


シャブリから海や塩のトーンが感じられるのは、この世にも稀な土壌の影響によるものです。エグゾジラ・ヴィルギュラ──謎の呪文のような響きを持つこの貝が牡蠣の仲間であることも「シャブリは牡蠣に合う」という常套句の根拠になっているようです(この「定説」について僕には異論があります。それについてはまた後ほど)。



この辺りがかつては海の底だったことを物語る化石が畑からどんどん出てくる。


エリックさんの「ドライブ&ガイダンス」は、スラン川右岸のグラン・クリュの畑に場所を移して続きました。実際に畑を歩いてみると、同じ西向きの斜面にもやや南を向いたところ、逆に北を向いたところと様々な違いがあるのがわかります。土地の傾斜の度合いも様々。激しい寒風の中、足を踏ん張って歩いていると、場所によって風の吹き方にも大きな違いがあるのがよくわかりました。これらの一つひとつの要素が個々の区画に違いを与えており、その違いをシャルドネという単一の品種で表現しているのがシャブリというワインであり、飲み手の楽しみも、その微差を感じることにあるのだと教わりました。

エリックさんのガイダンスには最後を締めくくる決め台詞があります。それは、「シャブリの造り手はクリエーターではなく、トランスレーターなのだ」というもの。次回以降、この言葉の真意に少しずつ迫っていけたらと考えています。
(つづく)


Photographs by Taisuke Yoshida,
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)




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