SALON COLUMN

ワイン造りのフィロソフィー(その① 浅井昭吾 氏)

2019.11.05



ワイン造りのフィロソフィー(その① 浅井昭吾 氏)

最近日本ワインが注目を浴びています。甲州、シャルドネ、ソーヴィニョン・ブラン、アルバリーニョといった白ワイン、マスカット・ベーリーA、メルロ、プティ・ヴェルド、シラーなど、多くの県から特徴のあるワインが生まれています。会社に入ってワインを造り始めてから、多くの方と出会い、それらの人たちとワインを仲立ちとした交流を通して、ワイン造りについての考えをもつことができました。

日本のワイン造りに飛び込む 私がワイン造りに飛び込んだのは1995年です。早くも四半世紀近くが経過したことになります。私は茨城県水戸市の出身ですが、入社して初めて山梨に住むことになり、勝沼ワイナリーから7㎞ほど離れた山梨市にあった独身寮に入りました。10年ほど前に取り壊されて今はありません。この寮はメルシャンの前身の会社の一つである三楽酒造がウイスキー用に昭和30年代に建てた工場に隣接しており、建ててから40年ほど経った2階建ての建物でした。6畳の部屋が7つあり、ほかに賄(まかな)いの食堂と共同の風呂がありました。この当時ワイナリーに若手が少なかったことから、新入社員の自分を含めて入居者は2名で、各部屋にはカギはついていましたが、寮の入り口は施錠しないようなところでした。初めて建物の外観と部屋の中を見たときは「こんなところに住めるのかな?」と思いましたが、「住めば都」はよくいったもので、結婚する際に引っ越すまで、途中本社への転勤の時期を挟み、通算3年10ヶ月住みました。



浅井昭吾さんとの出会い 自分が入社したのと同時に、浅井昭吾さん(元メルシャン勝沼ワイナリー工場長、ペンネーム麻井宇介、映画ウスケボーイズのモデル)が退職されましたので、浅井さんの送別会と一緒に、私の歓迎会は石和温泉のホテルで開かれました。非常勤顧問になった浅井さんは、ご自宅のある鎌倉に戻られましたが、月に2回程度出張で山梨に来る機会がありました。近くにビジネスホテルはあるのですが、浅井さんはいつもこの古ぼけた独身寮に泊まりました。

ある日、ワイナリーでお会いした時「今日は寮に泊まるからね」と声をかけてくれ、会社での仕事を終えて寮に戻ると、浅井さんは浴衣に着替えて食堂でテレビを見ながら夕食をとっており、「やあ、お帰りなさい」と笑顔で声をかけてくれました。風呂に入ってから食堂に行くと、食事を終えた浅井さんは新聞を読んでいます。「今日はどんな仕事だったんですか?」との問いに、「ワイナリーで現場は大事だということはわかっているのですが、単純作業が多く、学生時代に学んだことが生かせているかどうか・・・」と答えると、「メーカーではいろんなことを経験した方がよいですよ。今はそんな気にはなれないと思うけど、将来貴重な財産になるはずです」との言葉。これをきっかけに、浅井さんが独身寮に泊まるときは、用意しておいたワインを飲みながら、ワイン造りについての話をするようになりました。時には夜10時過ぎになることもあり、今思っても贅沢な時間を過ごせたと思います。



浅井昭吾氏(1930-2002)
(2002年、湘南グランドホテル)


歴史的な視点が大事 「ワイン造りを考えるときには、過去どういう経緯で今のワインの造り方につながったかという、歴史的な視点が大事」という言葉が印象的でした。月に2回くらいでしたが、浅井さんとじっくり話をすることが楽しみとなり、浅井さん書かれた本を読んで、質問を用意しておくこともありました。こうしたことが、工場の現場で作業をするなかでも、やりがいにつながりました。他にも、浅井さんが最初にワイン造りに触れた昭和20年代末のころから、現在に至るまでの日本のワイン造りに関することを聞くことができました。こういった経験を通して、ブドウ栽培・ワイン醸造を考える際に「歴史を意識する」という視点を得ることができたと思います。

「過去と現在のワイン造りの延長線上に、未来のワイン造りがある。ちょうどライフルで的を狙うときに、手前の部分(過去)とライフルの先端(現在)の延長線上に標的(未来)を据えて狙うのと似ている」というお話など、「歴史的な視点をもつこと」は、その後の私のワイン造りの大切なフィロソフィーとなっています。


Writing by Mitsuhiro ANZO



安蔵光弘(あんぞうみつひろ)

シャトー・メルシャン製造部長/チーフ・ワインメーカー 東京大学農学生命科学研究科応用生命工学専攻修士課程修了(応用微生物学)。メルシャン入社後、フランスボルドー駐在、本社生産SCM本部品質管理部長を経て、2015年より現職。シャトー・メルシャンの3ワイナリー(勝沼ワイナリー、桔梗ヶ原ワイナリー、椀子ワイナリー)を統括。著書に、「ボルドーでワインを造ってわかったこと~日本ワインの戦略のために(2018年、イカロス出版)」など。




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