SALON COLUMN

真冬にシャブリを❶

2019.10.22

078

真冬にシャブリを❶

朝8時。僕はスラン川の畔に立ち、寒さによる震えで自分の歯がガチガチと音を立てているのを聞いていました。川の向こう岸の、落葉して骸骨のようになった木々の間からオレンジ色の朝日が昇るのが見えました。その光を反射した川面から白い霧が立ち上がり──おそらくその場で凍って氷片になっていたのでしょう──朝日にキラキラと輝く様は、この世のものとは思えない神々しい光景でした。



夜明けのスラン川。


真冬のシャブリに来ていました。それまでにも何度かシャブリを訪問したことがありましたが、いずれももう少しマシな季節でした。この時僕はスラン川の畔にある〈ドメーヌ・エレオノール・モロー〉というワイナリーを訪問したところでした。真冬の産地取材も、朝8時のワイナリー訪問も極めて異例のことでしたが、後で振り返ってみると、おかげで随分と貴重な経験をすることができました。



出迎えてくれたエレオノールさん。


僕を迎えてくれたのは、当主でワインメーカーのエレオノールさんでした。家のダイニングに通され、熱い紅茶を飲ませてもらって、ようやく僕の震えはおさまりました。エレオノールさんには、創業者で今も一緒にワイン造りを行なっている父親がいるはずでした。「お父様はまだお休みですか?」と訊ねると、「父は畑に出ています」という答えが返ってきてびっくりしました。戸外の気温は氷点下5℃です。12月半ばの朝8時に、厳寒の畑で一体どんな作業をしなくてはならないのか、僕には全く想像することができませんでした。



凍てつくブドウ畑。



「エレオノール・モロー プティ・シャブリ2017」。蜂蜜の優しくて甘苦いフレーバーがある。


“グッド・ワイン”を探す旅。今回は真冬のシャブリを巡りたいと思います。シャブリといえば、白ワインの代表格として、あるいは牡蠣に合うワインとして、ワインに詳しくない人でもその存在くらいは知っている、とても有名な産地です。けれど、どれだけの人がシャブリの真髄を知っているかといえば、それほど多くはないのでは? さらに言うと、シャブリはあまりにもポピュラーであるがゆえに、かえって普段のワイン選びの候補に上がりにくいということはないでしょうか?



枝に残った二番果。



グラン・クリュの畑で剪定作業にいそしむ人。


シャルドネというたった一つのブドウ品種から白ワインだけを造るシャブリという産地は、その成り立ちだけでもユニークな存在です。そこにはカッチリとした格付けがあり、その分類通りの味わいがワインに反映されています。そういう意味では、ワインとテロワールの関係を理解するのに、これほどふさわしい産地はないと言えます。さらに付け加えるなら、シャブリはパリから日帰りすることもできる、素晴らしい旅のディスティネーションです。そんなシャブリの最近のイメージアップの陰に日本人シェフの活躍があったことも今回の取材で分かりました。



シャブリ市内、スラン川から引き込まれた運河。



オフシーズンの街は人影もほとんどない。


冷やして飲む白ワインは暖かい季節の飲み物だと思われているかもしれませんが、僕は寒い季節に飲む白ワインが好きです。日本の冬の味覚には、シャブリのように引き締まった酸を持ち、ミネラル感に溢れた白ワインに合うものが多いということも言えると思います。暖かくした部屋で、シャブリのグラスを傾けながら、真冬のシャブリの旅を一緒に楽しんでもらえたらと思います。
(つづく)



郷土料理のアンデュイエット


Photographs by Taisuke Yoshida,
Special Thanks to BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)




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