SALON COLUMN

“C”をめぐる冒険❾

2019.10.15

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“C”をめぐる冒険❾

ここまで8回に亘って巡ってきたモンサン。旅の最後に“新興のスーパースター”アルフレッド・アリーバス氏に登場願いましょう。 アリーバス氏はスペインを代表する建築家として長年バルセロナをベースに活躍してきた人です。日本とも縁があり、香川県丸亀市の丸亀平井美術館などの設計をしています。



「私が造るのはクラシックなワインか、アバンギャルドなワインのどちらかだけ。その中間はない」とアリーバス氏。


ワイン造りという、全く異なるジャンルにアリーバス氏が果敢にも参入したのは15年ほど前のこと。モンサン南部に20haのブドウ畑を取得(プリオラートには60haを所有)、多くのブドウ樹は樹齢100年に達する古木です。



アリーバス氏がモンサン南部に所有する畑は粘土石灰質土壌。ブドウは昔ながらの株仕立てで植えられている。


他のジャンルから参入したこと、後発であったことは彼にとってハンデではなく「強み」であるようです。彼のワインを飲めば、自然で、既成概念にとらわれぬ自由な造りであることがわかります。畑ではビオディナミ(有機農法の一つ。前回のコラム参照)を実施。醸造においても自然なアプローチを宗とし、発酵は野生酵母による自然発酵、マセレーション(浸漬)は短め、SO2添加は最小限に抑制、といった具合です。彼のワイン造りを、ある人がドイツ出身の建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの有名な言葉「レス・イズ・モア(Less Is More)」に喩えていましたが、まさに正鵠を射た表現だと思います。



横長のエッグタンクで育成中の白ワインをチェックするスタッフ。


テイスティングを通じて僕が特に感銘を受けたのは、「ゴテス2016」というワインでした。品種はガルナッチャとカリニェナ半々、ステンレスタンクで発酵後、フレンチオーク樽で8カ月間の育成を経てボトル詰めされます。このワイン、アルコール飲料であることを忘れてしまいそうなほど瑞々しい! というのがファースト・インプレッションでした。赤い果実(グロゼイユやザクロ)、プラム、ハーブの香りが交じります。軽やかさはフラワリーなトーンから来るのでしょうか。口の中ではひたすら滑らかでスムース。生椎茸を思わせる、旨みの予感に満ちた風味があり、後半には果皮を噛むような仄かな苦味がレイヤーとなって広がります。ゴテスとは「雫」を意味する言葉だそうですが、その名の通りの印象でした。そして、語弊があることを承知の上であえて言うなら、それはモンサンらしからぬワインでした。



「ゴテス2016」


醸造所を訪ね、アリーバス氏に訊いてみました、「一体、どうやったらゴテスのようなワインが造れるのですか?」と。アリーバス氏はニヤリと笑い、一つだけこのワインにかけられた魔法の秘密を教えてくれました。 「ガルナッチャは少し遅めに、カリニェナは少し早めに摘む。私がやっているのはそれだけだよ」 アリーバス氏のこの言葉について、僕は取材後半年を経た今も時々思い出しては、考えを巡らせています。すでにモンサンの主要品種について学ばれた読者の皆さんには想像がつくでしょうが、常識的な考えとアリーバス氏の行っていることはまるで正反対です。ガルナッチャは過熟するとキャンディーっぽく、ベタッとした風味になるので、少し早めに摘む。一方、カリニェナは未熟だとネガティブなエグ味が強まるので、よく熟すまで待つ──というのが多くの生産者のアプローチ(=常識)です。アリーバス氏はそれと全く逆のアプローチで、驚くほどに瑞々しいワインを造っている‥‥



こちらはアリーバス氏の手になる白ワイン「トロス・ブランク ノタリア2014」。ガルナッチャ・ブランカ100%。白でありながらテクスチュアがあり、味わいもセイバリー。


「ゴテス2016」は現地の小売価格で25ユーロほどです。これこそは紛うかたなき“グッド・ワイン”だと思います。僕はかねがね「ワインは人の心を開くもの、心を開いて楽しむべきもの」と信じてきました。が、今回“C”の形をしたモンサンの果てしない多様性と無限の可能性に触れ、もっともっと心を開いてワインと接しなくては、と改めて肝に銘じたのでした。


Photographs by Yasuyuki Ukita,
Special thanks to Consejo Regulador DO Montsant and Yuko Satake




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