SALON COLUMN

“C”をめぐる冒険❽

2019.09.16

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“C”をめぐる冒険❽

〈オルト・ビンス〉は、1980年代末以降にプリオラートにイノベーションをもたらした「4人組」の一人、アルバロ・パラシオス氏の下で長年にわたってテクニカルディレクターを務めたジョアン・アセン氏が志を同じくする3人のブドウ栽培農家と組んで2008年に立ち上げたワイナリーです。場所はオレンジ色のサブゾーンに属するエル・マスロイグ。



協同組合の建物の前に立つジョアン・アセン氏。この中に「オルト・ビンス」の醸造施設がある。


「オルト」という言葉はラテン語で「地平線に星が昇ってくる様」を指す言葉。さらには「正しさ」「均衡」「美」を表すギリシャ語由来の接頭語でもあります。この言葉にアセン氏らの土地とワイン造りに向き合う姿勢と想いが込められているのです。アセン氏らが父祖から受け継いだ畑は昔ながらの株仕立てがもっぱらで、化学肥料はもともと使われていませんでした。フィロキセラ禍を免れた自根のブドウ樹も残っています。「農業遺産」と呼ぶべきそういった畑に敬意を表し、それらを保全し、ポテンシャルに相応しいワインを造ること──4人はその使命感で結びついていると言います。畑ではビオディナミ(*1)を実践。醸造は農業協同組合の施設を間借りして行っており、見た目はまさにガレージ・ワイナリーそのもの。そこで野生酵母による自然発酵によって、瑞々しくニュアンスに富んだワインを造っています。



ミニマルで素朴な醸造設備。往々にして“グッド・ワイン”はこういうところから生まれる。



アセン氏が父親から受け継いだ畑。周囲のオリーブ林や森まで含めて「遺産」と呼ぶべき風景だ。


エントリー・アイテムの「オルト」はメンバーそれぞれが異なるテロワールを持つ畑から持ち寄ったブドウでエル・マスロイグ全体を表そうとする試み。品種はカリニェナ56%、ガルナッチャ29%、ウル・デ・リェブレ(テンプラニーリョ)10%、ピカポール・ネグレ5%。樹齢70年の古木から2011年に植えられた若木まであり、畑の標高も海抜50m〜250mと様々。土壌も石灰質、粘土、小石、スレートと多様です。親しみやすい味わいでありながらも、奥深く、複雑。モンサンの扉を叩くのにふさわしいワインと言えます。



「オルト2016」(右)。左は旧ラベルが貼られた初ヴィンテージの2008。


「ブラン・ドルト ブリサット」は4つの異なる畑で実ったガルナッチャ・ブランカを皮醸しして造る、いわゆるオレンジワイン。ミネラル感のある香りに酵母のトーンが交じり、口の中では噛めるようなテクスチャーが感じられます。



「ブラン・ドルト ブリサット2017」。


「シングラリタッツ・ドルト」はメンバーがそれぞれに“遺産”と自負する、低収量の古木に実った果実で造る単一品種によるスペシャル・キュヴェ・シリーズ。4本ある中で僕が今回最も感銘を受けたのは「レス・タラデス・デ・カル・ニコラウ」でした(試飲したのは2104年物)。品種はガルナッチャでもカリニェナなでもなく、ピカポール・ネグレ100%。希少品種です。アセン氏のひいお爺さんが1880年に植えた木だとのこと。樹齢はなんと149歳です。



「レス・タラデス・デ・カル・ニコラウ2014」(左)とガルナッチャ・ペルーダ100%の「パレル2014」(右)。


大樽でじっくりと時間をかけて自然発酵させ、中古の小樽で12カ月間熟成させたこのワインは、一見儚いのですが、細くても決して切れないタイトロープのようなテンションがあります。ワイルドベリーに野花、ハーブの香り。ほどよくアーシーなトーンがよぎります。舌触りは滑らかで、清々しい余韻が残ります。モンサンのポテンシャルは想像を絶する、とこのワインを飲んだ時に僕は思いました。ちなみにこのワインの生産量は年間わずか600本。価格はEU圏内の市販価格で40ユーロほどです。
(つづく)


Photographs by Yasuyuki Ukita,
Special thanks to Consejo Regulador DO Montsant and Yuko Satake


*1:ビオディナミは神秘思想家のルドルフ・シュタイナーが考案した有機農法。月の運行に従って作業を行う、独特の調合材(プレパレーション)を用いるなどユニークな決まりがある。これを実践することによって、ブドウ樹が生命力を増し、ワインにも活力が宿ると実践者は言う。




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