SALON COLUMN

“C”をめぐる冒険❻

2019.08.23

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“C”をめぐる冒険❻

今回の話題は、ガルナッチャと並ぶモンサンの赤ワインの主要品種カリニェナについてです。栽培面積の割合で言うと、黒ブドウの内、ガルナッチャが34.41%であるのに対してカリニェナは30.20%、つまり赤ワイン用のブドウの3分の1ずつをガルナッチャとカリニャナが占めているというわけです。



古木に実ったカリニェナの果実。


カリニェナの故郷はガルナッチャと同じスペインのアラゴン州です(州南部に「カリニェナ」という名の町がある)。この品種はスペイン東部の他、南フランスやイタリアのサルデーニャ、アフリカのアルジェリア、アメリカ、チリなどでも栽培されています。フランスでは「カリニャン」、イタリアでは「カリニャーノ」と呼ばれています。モンサンでは地元の言葉で「サムソー」と呼ばれ、ラベルにもそう表記されることがあります。南仏の「サンソー」とそっくりな響きですが、別物です。



セレール・マスロイグ の「レス・ソルツ ビニェス・ベリェス2015」。カリニェナ主体でガルナッチャをブレンド。赤い果実とスミレの優美な香り。


グルナッシュの回にも登場願った英国人ジャーナリストで詩人のアンドリュー・ジェフォード氏は前掲書の中で「カリニャン」についてこのように述べています。 〈最近再び注目を集めはじめた品種の一つ。つくり手たちが古木の存在に気がつき、かつての魅力を備えたワインができるかもしれないと考えたからである。「酸を加える」ためにブレンド用としても多く使われるが、私は嫌いだ。アスピリン臭く、鋭くて粗野、せっかくのいいワインを台なしにしてしまう〉 後半はかなり手厳しいことを言っています。ジェフォード氏はこの品種のワインでよほどひどい目に遭ったことがあるのでしょう。



セレール・カイラッツのラモン・マシップ氏。彼のワイナリーでもカリニェナの古木が重要な役割を担っている。


英国人ジャーナリストのジャンシス・ロビンソン女史がまとめたブドウ品種のバイブル的な書物『Guide To Wine Grapes』からも「カリニャン」の解説を引用してみましょう(注:浮田が訳し、適宜編集を加えました)。 〈カリニャンは1990年代においては奇妙な選択と言える。酸も、タンニンも、色素も、渋みも全てが高い。フレーバーに欠け、魅力に乏しい。若飲みには適していない上に、熟成には値しない。フランスのベーシックなテーブルワインの、刺激的な渋みは多くはこのブドウのせいだ。収斂性のある渋み。だが、サンソーかグルナッシュとブレンドすることで、かなり軽減することができる。栽培は簡単というわけではない。うどん粉病に弱い。腐敗が起こりやすい。果粒が果梗にガッチリと付いているので機械積みに向かない。開花が遅く、成熟も遅い。ふさわしい土地で極めて注意深く育てられた古木から低収量で収穫された場合にのみ、本来の良さを持ったカリニャンができる。あるいはカーボニックマセレーション(ブドウを破砕しないで密閉タンクに入れ、そこにCO2を注入して嫌気的に発酵させる方法)がカリニャンの若い魅力を、補うことは無理でも、変装させる役には立つだろう〉 こちらでもあまり評判は芳しくないようです。しかし、ジェフォード氏の本が書かれたのは1998年、ロビンソン女史の本は1996年。その後の20年間で世界のワイントレンドは大きく変化しており、カリニェナのワインもスタイルと評価が違ってきています(そして何よりもブドウ樹が当時よりも20年分樹齢を重ねていることが重要!)。



セレール・ベルムンベールの「ジェネシ バラエタル カリニェナ2013」(右)と同ガルナッチャ(左)。


僕なりにまとめるなら、カリニェナは酸が高く、ことに若樹の時にはタンニンが粗く、渋み・えぐみの強い、好意的に言えば個性的、控えめに言えば「クセの強い」品種です。苛烈な暑さと乾燥に強く、収量が多いことから、「質より量」のための品種として各地に広まった時代がありました。けれども、人々の嗜好性が向上し、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローと言った誰にでも好まれる品種が台頭するに従い、凋落の憂き目に遭います。 しかし、時は巡り、人々の嗜好が個性を求めるようになって、この「奇妙な選択」に再び脚光が当たりはじめたのです。幸い、過去に夥しい数の苗が植えられていたので、不人気の時代にも生き延びて古木になったカリニェナが各地に残っていました。元来晩熟のこのブドウがきちんと熟す、日当たりの良い暖かい土地で、収量を限られた古木に実った果実で造られたワインの中には、えも言われぬ陰影が宿ります。その香りは果実よりも動物の皮や肉を思わせ、スパイスや野草、ドライフラワーのトーンを帯びます。ひとたび、カリニェナの逸品に出会うと、他の品種のワインが子供じみてつまらなく感じることさえあります。



セレール・ベルムンベールの5代目ロジェール・ベルネ氏。


話をモンサンに戻せば、この土地では、伝統的にカリニェナはガルナッチャとブレンドされます。天真爛漫で誰からも愛されるヒーロー(ガルナッチャ)と黒いマントを被りマスクで顔を隠した謎のキャラクター(カリニェナ)が競演する時、その演目は観客を夢中にさせることができるのです。 一方で、カリニェナ単一で勝負するチャレンジングなワインメーカーもいます。例えば、「赤」のサブゾーンに属すセレール・ベルムンベールの「ジェネシ バラエタル カリニェナ2013」は、熟れた黒系果実にハーブやバルサミックのトーンが交じる、複雑な味わい。古木由来に違いない滑らかな酒質も申し分なく、羊肉や山羊肉の香ばしいローストが欲しくなるグッド・ワインです。カリニェナは石灰質の酸性土壌を好むと言われています。セレール・ベルムンベールのあるマルサは粘土が優勢ですが、石灰質も混じっていると聞きました。そのあたりがキーになっているのかも知れません。



ゴブレ(株仕立て)で植えられたカリニェナの古木。


(つづく)


Photographs by Yuko Satake,Yasuyuki Ukita,
Special thanks to Consejo Regulador DO Montsant and Yuko Satake




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