SALON COLUMN

“C”をめぐる冒険❺

2019.08.03

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“C”をめぐる冒険❺

モンサンのブドウ品種について見て行きましょう。すでに述べた通り、モンサンは赤ワインが主役を演じている産地です。現在、日本を含む40カ国に輸出されているモンサンワインの評価を左右しているのは、ブドウの作付け面積で94%占める赤ワインであると言えます。赤ワインの主要品種はガルナッチャとカリニェナ。この2つで黒ブドウ全体の約3分の2を占めています。伝統的には両者がブレンドされてきましたが、近年では、それぞれ単一によるワインで品種特性をより濃く表そうとする生産者が増えています。



スカラ・デイ修道院。建造は1194年。モンサンやプリオラートのワイン造りにここの修道士たちが大きく貢献した。


ガルナッチャはスペインで4番目に多く栽培されているブドウです。ちなみに1位は白ぶどうのアイレン、2位はリオハの代表品種テンプラニーリョ、3位はウティエル・レケーナの固有品種ボバルです。テンプラニーリョはモンサンではウル・デ・リェブレという名で呼ばれ、黒ブドウの中ではガルナッチャ、カリニェナに次いで、3番目に多く栽培されている品種です。



収穫を待つガルナッチャ。


スペイン北東部のアラゴン州を原産地とするガルナッチャは、スペイン北部に広く分布。ピレネーを越えて南フランスにも広がり、コート・デュ・ローヌ南部では主役の座を射止めています。フランスでの呼称は「グルナッシュ」。イタリアのサルデーニャ島の代表品種であるカンノナウもガルナッチャです。地元の人たちの中には「カンノナウはサルデーニャの固有品種だ」と言い張る人も少なくないようですが、アラゴン連合王国がサルデーニャを支配下に治めていた中世の時代に海を渡ったガルナッチャが根付いたものということで間違いないようです。モンサンのお隣のプリオラートには約800年前にはガルナッチャが植えられていたことがわかっています。

暑くて乾燥した土地に向き、ワインは熟れたプラムやマルベリーのような親しみやすいアロマを持ちます。樹齢が高い木の果実から造られたワインはデリケートな香りと味を有し、最良のものは「官能的」と表現したくなるような艶かしさを放ちます。



各社の赤ワイン。いずれもガルナッチャ単一か、同品種を主体にしたブレンドで造られている。


「赤ワイン用のブドウの中で最も甘い」と表現するテイスターもいます。糖度の高さはワインにした時のアルコールの高さに直結します。アルコール度数は15%に達することも。酸も豊かなのですが、甘さに隠れて目立ちません。色はそれほど濃くはなく(ガルナッチャは「ガーネット」の意味だとの説もある)、タンニンも少なめです。

誰からも愛される天真爛漫なガルナッチャは、適切に栽培・醸造がなされないと、見た目は良いけど中身のない人──ジャミーで深みのないワイン──に堕ちてしまいます。その一方で、「クセもの」とブレンドされることで、別の境地を見出すことがあります。コート・デュ・ローヌではシラーが、リオハではテンプラニーリョが、モンサンではカリニェナがお相手です。イギリスのワインジャーナリストで詩人でもあるアンドリュー・ジェフォード氏は次のように書いています。
〈グルナッシュはシラーの反対ではないかと思われるかもしれない。確かに、ある意味では当たっている。だからこそ、二つはブレンドで「結婚」するのだ。シラーは油ものをいっさい食べない夫で、グルナッシュは脂のない肉なんて大嫌いな妻。二人が食事をすれば、皿はキレになるはずだ〉(*1)



「ベヌス・ラ・ウニベルサル」のサラ・ペレスさん。夫のレネ・バルビエJr.さんと共にモンサンを代表する造り手。


ガルナッチャの正式名称はガルナッチャ・ティンタと言います。ティンタは「インク」「染まった」という意味です。モンサンには白ワイン用のガルナッチャ・ブランカという品種があります。それで、それと区別するために赤ワイン用の方をガルナッチャ・ネグラ(黒いガルナッチャ)と呼ぶことがあります。



「エストネス・ビンス」のセルジ・モンターラさん。「テルセス2013」は、ガルナッチャとカリニェナのブレンド。最良のキュヴェ3樽のみで造るエクスクルーシブ・レンジ。


また、モンサンではガルナッチャ・ペルーダという変種がわずかですが栽培されています(栽培面積で0.5%)。量的にはわずかですが、だからと言って無視するには勿体無い品種だと僕は思います。ガルナッチャ・ペルーダはガルナッチャ・ティンタと比べ、色が薄く、ストラクチャーもしっかりしていません。いわば、儚げなブドウなのです。ちなみに「ペルーダ」はカタルーニャの言葉で「フランスの川に棲む手むくじゃらの怪獣」のこと。フランス兵を皮肉って付けたあだ名だそうです。この品種の葉の裏側に産毛のような繊毛が生えていることからこの名が付いたようですが、それにしても「毛むくじゃらの怪獣」って、ねえ‥‥。
(つづく)


Photographs by Taisuke Yoshida,Yasuyuki Ukita,
Special thanks to Consejo Regulador DO Montsant and Yuko Satake
*1:出典『ワインを楽しむためのミニコラム101』(アンドリュー・ジェフォード=著、中川美和子=訳、阪急コミュニケーションズ)




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