SALON COLUMN

“C”をめぐる冒険❹

2019.07.31

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“C”をめぐる冒険❹

モンサンの土壌や地勢の多様さ=ややこしさを逆手に取った「サブゾーン化」の話をする前に、土壌や地勢とワインの味わいについてザックリとお話ししておきましょう。



セレール・デ・カプサネスの「ラ・ニット・デ・レス・ガルナシェス」シリーズは、同じガルナッチャで4つの土壌の違いを表現。「砂」「石灰岩」「スレート」「粘土」がある。


土壌がワインの香りや味にもたらす影響について、一般的に言われているのは、以下のようなものです。
・石灰質土壌では酸が生き生きとしてフレッシュなワインになる。
・粘土質土壌ではボディがあってやわらかく、果実味が優勢のワインになる。
・砂や小石の多い土壌では、繊細でバランスの良いワインになる。
・花崗岩土壌ではフローラルな香りが際立つアロマティックなワインになる。
これに対し、「ワインの風味を決めるのは土壌の成分ではなく、水捌けや温度である」とする研究者もいます。例えば粘土は保水性が高く(水捌けが悪い)、冷たい土壌です。一方で、砂質やローム、石ころ中心の土壌は排水性が高く(水捌けが良い)、暖かい土壌です。ではこれで説明がついたかと言うと、ことはそれほど単純ではありません。我々人間は極めて繊細な嗅覚・味覚を備えていて、粘土質土壌から生まれたワインには「粘土っぽさ」を、石灰質土壌から生まれたワインには「石灰っぽさ」を、やはり感じるのです。



この辺りは石灰質土壌。鉄分が多く含まれるため、やや赤みを帯びている。


もう一度、先ほどの箇条書きに戻ってみてください。これらの土壌からの影響に、標高による寒暖差の大小や地勢による日照量の多寡が加味されていきます。例えば成熟期の昼夜の気温差が大きいと、ワインは綺麗な酸を持つ輪郭のクッキリとした味わいになり、逆にその差が小さいとゆったりとして重心の低いワインになります。つまり、標高の高いところにある石灰質土壌の畑で実ったブドウのワインは、キレのあるリフレッシングな味わいとなり、良質な酸のお陰で、長期熟成にも向くという推測ができるというわけです。



畑の傍に生えた野生のタイム。


モンサンの原産地呼称統制委員会(産地の名称と保護し、ワイン造りのルールを設けて、品質を保証する組織)はモンサンを6つのサブゾーンに分け、それぞれの特徴を打ち出して、ワインをプロモートする試みを2008年から行なっています。各ゾーンの特徴を明確にし、アピールすることで、飲み手は「モンサン=多様→ややこしい→個性が捉えにくい→モヤモヤ」という呪縛から逃れることができ、また造り手の側も自分の畑のテロワールについて明確に語ることができるというわけです。6色に塗り分けられたサブゾーン・マップに従って、各ゾーンの特徴をまとめておきます。



6つのサブゾーンを6つの色で示してある。© Consejo Regulador DO Montsant


【コルヌデッラ・デ・モンサン、ウルデモリンス地区(紺色)】
平均気温:14.33℃
年間降水量:484.74mm
標高:400-700m
畑の傾斜:27%
土壌:コルヌデッラ・デ・モンサンは石灰岩ベースで、スレートや丸い小石が混じる。ウルデモリンスはローム。
コメント:最も標高が高いゾーン。海の影響を受ける。ワインは酸が高い。


【ラ・フィグエラ、カバセス、ラ・ビスバル、マルガレフ地区(緑色)】
平均気温:13.37℃
年間降水量:395.23mm
標高:300-500m
畑の傾斜:32%
土壌:石灰質を含む粘土。もしくは石灰岩。
コメント:高標高で、最も雨が少ないゾーン。品種はガルナッチャが主体。


【エル・モラール、エル・マスロイグ、ダルモス地区(オレンジ色)】
平均気温:15.55℃
年間降水量:440.70mm
標高:50-300m
畑の傾斜:17%
土壌:粘土、ローム、砂質、リコレリャ(スレート)など多くの種類の土壌が見られる。
コメント:夏場は地獄のように暑くなる。ワインはパワフル。


【マルサ、カプサネス、エルス・ギアメット、ラ・セラ地区(赤)】
平均気温:16.05℃
年間降水量:525mm
標高:100-500m
畑の傾斜:14%
土壌:保水性の高い粘土が優勢。リコレリャや砂とロームの混ざった土壌も。
コメント:暑くて乾燥している。モンサン全体の約50%のワインを産する。


【ファルセット(黄色)】
平均気温:14.97℃
年間降水量:649.90mm
標高:300-400m
畑の傾斜:15%
土壌:「サウロ」の呼び名で知られる砂質土壌。また、リコレリャと花崗岩が混ざった、石ころが多くて水捌けの良い土壌も。
コメント:小さなゾーンだが、モンサン全体の約10%のワインを産する。


【プラデル・デ・ラ・テイシェタ、ラ・トーレ・デ・フォンラウベラ地区(紫)】
平均気温:14.02℃
年間降水量:667.20mm
標高:330-420m
畑の傾斜:30%
土壌:地元で「パナル」と呼ばれるローム質土壌に畑が開かれている。砂利と砂と石灰岩によって特徴づけられている。
コメント:地中海の影響を最も強く受ける。午後には海風が吹く。ブドウはゆっくりと成熟する。



オルト・ビンスの畑はオレンジ色のゾーンにある。



赤のゾーンにあるセレール・ベルムンベールの畑は粘土質土壌。



同じ赤のゾーンにある畑だが、ここは川に近く、小石が多く見られる。


標高差のことはすでに述べましたが、降水量や気温、傾斜にも地区によって大きな違いがあることがわかります。これらの数字を頭に入れるのは至難の業ですし、現地の生産者でもない限り、その必要もないでしょう。モンサンのワインを目の前にした時に、それがどのようなゾーンから来たのかに想いを致すことができれば、それはそれで豊かなことだと僕は思います。
(つづく)


Photographs by Yasuyuki Ukita
Special thanks to Consejo Regulador DO Montsant and Yuko Satake




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