SALON COLUMN

“C”をめぐる冒険❸

2019.07.26

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“C”をめぐる冒険❸

ワイン・ジャーナリズムの世界で「昇り竜」と注目されるモンサン。この産地を最も色濃く特徴付けているのは地勢と土壌である、というのが現地取材を通じて僕がたどり着いた結論です。学生の頃、「地理」は得意科目でしたか? 苦手だったという人も、心配はご無用。ワインを愛すれば、自ずと地理学、地質学を愛するようになります。難しい話はしないので(難しい話は苦手です)、どうかご安心を。 まずは絶景の写真から見てもらいましょう。スペインらしい石造りの壁にシナモン色の屋根を持つ家並み。中程には教会の鐘楼が立って風景にアクセントを刻んでいます。村の背後には青々とした森が広がり、その奥には切り立った岩の壁が屏風のように広がっています。


ラ・トーレ・デ・フォンタウベーリャ村。


ラ・トーレ・デ・フォンタウベーリャ村は「C」の形をしたモンサンの右の端、中心都市ファルセットの東方にあります。奥に見えている岩山こそは、ワイン産地「モンサン」の名の由来になったモンサン山地。最高標高地点はロカ・コトバテラ峰の頂で、海抜1162mです。ちなみにラ・トーレ・デ・フォンタウベーリャ村は海抜369m に位置しています。ここよりも南には、エブロ川が削った渓谷に沿って、もっと標高の低い土地が広がっています。



モンサンの地勢の特徴はその険しさにある。


次に「C」の右上(北東方向)に位置するシウラーナからの眺望を見てもらいましょう。写っているのはモンサン山地の東端のあたりの山並みです。



シウラーナ村の入り口からの眺望。



村の建物の建材には赤色砂岩が目立つ。


この厳しい岩肌を見せる山塊には様々なタイプの地質が露出しています。遠くの高い壁のような山がモンサン山地の一部ですが、これは主に礫岩と砂岩でできています。右手の崖の下の方は赤色砂岩、その上の灰色は貝殻石灰岩です。これらが長い年月の間に削られ、流され、堆積して、その土地土地に固有の土壌を作り上げていきます。手前の山とモンサン山地の間にはリコレリャ(スレートでできた土壌)が広がっています。モンサンはまるで土壌サンプルの屋外展示場のようですね。



絶景を楽しんだ後、ツーリストが立ち寄るバル。



別のアングルからモンサン山地を望む。



シウラーナの近くにある「セレール・ロナデレス」で。蔵の壁には石灰岩が使われていた。


「C」の下の方、ファルセットから南の一帯にはこの辺りで最も古い、5億年前の花崗岩の土壌が広がっています。と言っても、あちこちで花崗岩が露出しているわけでなく、上記の砂岩や石灰岩が削られ、砕かれ、川の流れによって運ばれて堆積した土砂が花崗岩の表面を覆っています。鉄分の多い砂岩がメインのところは土が赤く見えます。石灰岩がメインのところは白っぽく見えます。



モンサン南部、エル・マスロイグの畑の土。粘土が優勢。



エル・マスロイグの注目すべきワイナリー「オルト・ビンズ」のブドウ畑。


こうして、文字だけを追っていても覚えきれないと思います。モンサンの土壌の特徴は、その多様さにあるとだけ、まずは記憶に留めてください。理解を容易にするために、モンサンの土壌を大まかに3つに分けると、以下のようになります。
1. 石灰質、石灰岩土壌を母岩とする土壌  川の浸食によって堆積。地元で「パナル」と呼ばれる。粘土を多く含む赤い土壌になることもある。
2. 花崗岩土壌  花崗岩や礫岩が砂になったもの。有機物が少なく、保水性が低い。
3. スレート中心の土壌。「リコレリャ」と呼ばれる。有機物が少ない。浸食が進むと、よりかたく締まった赤い土壌が現れる。


土壌の違いはワインの味わいの違いに現れます。その詳細は、回を改めてお話しします。険しい山の中の、幅広い標高差の中にある、多彩な土壌のパッチワーク──「地理」でまとめると、モンサンはそういうワイン産地になります。ややこしい‥‥。しかし、モンサンの原産地統制呼称委員会はこのややこしさを「売り」にしようとしています。そのために彼らが2008年から取り組んでいるのが、モンサンの「サブゾーン化」です。
(つづく)


Photographs by Yasuyuki Ukita
Special thanks to Consejo Regulador DO Montsant and Yuko Satake ●参考文献/「ヴィノテーク」2017年2月号




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