SALON COLUMN

“C”をめぐる冒険❶

2019.07.01

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“C”をめぐる冒険❶

ワイン好きを自認する人たちの何割がモンサンという産地やこの土地のワインを知っているでしょう? 試みに「モンサン」という言葉でグーグル検索をかけてみると、最初に出てくるのはフランスの有名観光地「モン・サン・ミッシェル」の記事。その後もずっとモン・サン・ミッシェル関連が続いて、スペインのワイン産地モンサンが登場するのは50番目くらいの項目からでした。



ファルセットのレストラン「マス・トゥルカフォルト」にて。


では、プリオラートならどうでしょう? グーグル検索の話ではなく、ワイン好きに認知されているかということです。プリオラートなら知っているという人が多いのでは? モンサンはプリオラートを取り囲むようにして広がる産地で、お隣同士の両者の間には風土やブドウ品種、ワインのスタイルにおいて、多くの共通点があります。何人かの生産者は両方の産地でブドウを育て、それぞれのワインを醸したりしています。いわばきょうだいのような2つの産地に、なぜこのような「認知の格差」が生まれたのでしょうか? 今回の“グッド・ワイン”を探す旅では、その辺りのことも考えてみたいと思っています。



モンサンのワインは赤が生産量の94%を占める。


スペインの地図を改めて眺めてみると、牛の顔のような形の国土の中でバルセロナは右上(北東部)の隅っこ、牛の顔で言うと左耳の付け根のあたりに位置することがわかります。そのバルセロナからバレアス海(地中海)を左に見ながら、ほとんど真っ直ぐな道を1時間ほどドライブし、タラゴナを過ぎてT-11号線に入ると、道はいきなり山岳地帯に向かう登り坂になります。さらに走ること40分ほどでモンサンの主要都市ファルセットに着きます。バルセロナからの距離は140kmほどです。「都市」と言ってもファルセットの人口は3000人弱。城塞が1つ、宮殿が2つあるきりの静かな街です。



ファルセットの広場。



モンサンは“C”の形をしている。 © Consejo Regulador DO Montsant


「モンサンはプリオラートを取り囲むようにして広がる」と書きました。上の地図からもわかるように、モンサン(赤い色で表示)はアルファベットの“C”のような特徴的な形をしています。ファルセットは“C”の下の弧が終わる手前に位置しています。“C”は出来損ないのドーナッツのようにも見えます。その穴の部分にスッポリと入るのがプリオラートなのです。



塩を振ってグリルしただけの肉やサルチッチャなどと若いモンサンの赤を合わせたい。



カタルーニャの冬から春にかけての味覚、カルソッツ(焼きネギ)を焼く人。


先に少しだけプリオラートのことを話しておきましょう。プリオラートは、リオハに次いで2番目にワイン法上の最高位であるDOCaに指定された、スペインを代表するプレミアム・ワイン産地です。「リコレリャ」(スレートでできた土壌)と呼ばれる独特の土壌から、長期熟成にも堪える素晴らしい赤ワインを生み出します。12世紀後半に遡るワイン造りの長い歴史を持ちますが、長らく他の産地にブドウやブレンド用ワインを供給するだけの二級産地の位置に甘んじていた時代が続きました。1980年代になって、プリオラートの人間ではない「よそ者」がこの土地の大きなポテンシャルに気づき、参入します。彼らが在来のブドウ(ガルナッチャやカリニェナなど)を使い、栽培と醸造を改良してワインを造り、91年にリリースすると、これがロバート・パーカー氏などから高い評価を受け、一気にブレーク。一躍注目の産地に大化けしたのです。中央政府からDOCaの承認を得たのは2009年のことでした。



プリオラートの特徴的な土壌「リコレリャ」。モンサンの一部にもある。


モンサンの話に戻りましょう。“C”の形をしげしげと見ていると、どうしても「モンサンはプリオラートになり損ねた周辺地域」ではないのか? という疑念が湧き上がってきます。が、それがいわれなき汚名であることは、読み進めていただければわかっていただけると思います。いつになく、こみいった話から入ってしまいましたね。このつづきは次回にしましょう。



貴重な古木が多いのもこの地方の特徴。


(つづく)


Photographs by Yasuyuki Ukita
Special thanks to Consejo Regulador DO Montsant and Yuko Satake




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