SALON COLUMN

地球上で最も孤立したワイン産地➓

2019.06.02

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地球上で最も孤立したワイン産地➓

前回ご紹介した〈ピエロ〉のことで一つぜひ付け加えたいエピソードがあります。ワンス・アポン・ア・タイム‥‥というほどは昔ではないある日のこと、馬主である男がワインを飲みながら自らが所有するデビュー前の仔馬の名前を何にすれば良いか、考えていました。ふと思いついて、目の前のグラスに注がれたシャルドネの銘柄を仔馬に付けることに。その名は「ピエロ」‥‥。

“ピエロ”の偉業を伝える新聞記事。

その後、順調に育ったピエロは2012年、オーストラリア競馬史上3頭しかなし得ていない2歳馬三冠の偉業を達成、日本円にして約45億円を稼ぎ出しました。〈ピエロ〉のシャルドネは勝利を招くラッキーアイテムとなったのです。〈ピエロ〉のテイスティングルームには、名馬ピエロの偉業を報じた新聞の切り抜きが額装して飾られています。


〈ボエジャー・エステート〉のレストラン。

海岸線と平行して南北に走る“マーガレット・リバーの黄金地帯”と言われるエリアのワイナリーをさらにいくつか訪ねてみましょう。鉱業で成功を収めたマイケル・ライト氏(故人)が1978年からあったエステートを購入し、1991年に設立したのが〈ボエジャー・エステート〉です。


畑の下から掘り起こされた巨大な岩に腰掛けるスティーブ・ジェームズ氏。

現在、栽培と醸造、両方の責任者を務めるスティーブ・ジェームズ氏によると、一見なだらかに見えるブドウ畑に下には巨大な岩がゴロゴロ。その隙間に粘土と砂利が入り込み、排水性と保水性のバランスのよい土壌になっているとのこと。設立当初から除草剤や化学肥料は使わず、エステート全体の植物相の健全さを保ちながらワイン造りを行ってきたと言います。そういう取り組みの結実であるワインは、白も赤も香りはクリアでニュアンスに富んでいます。

〈ボエジャー・エステート〉のメニューから、味噌を使った鶏肉のロースト、マッシュしたセルリアックとポテトのエスプーモがけ。


鴨のコンフィ、ビーツとルバーブ添え。ソースはハイビスカス。

「アーシーで端正なのが私にとっての理想のカベルネ」とジェームズ氏。良作年にのみ造られる「トム・プライス カベルネ・ソーヴィニヨン2012」を試飲すると、彼の理想がそこに表現されているのがわかりました。

 


カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローのブレンドを勧めるソムリエールのクレアさん。


右端が「トム・プライス2012」。

〈ケープ・メンテル〉は1970年設立。もともとマーガレット・リバーはオーストラリアでは珍しくフランスと縁の深い土地で、このワイナリーの名の由来になったメンテル岬もフランス語のスペルと響きを持っています。最初に開かれたウォールクリフ・ヴィンヤードでは朝夕にブドウ樹の畝間で羊やカンガルーが草を食む長閑な光景が見られます。

 
〈ケープ・メンテル〉のセラードア。


夕暮れのブドウ畑にやってきたカンガルー。

 

82年、83年と連続して、このワイナリーのカベルネ・ソーヴィニヨンがオーストラリアで最も権威のある「ジミー・ワトソン賞」を獲得したことは、マーガレット・リバーの名を大いに高めた“事件”の一つに数えられています。


エステート・ディレクターのキャメロン・マーフィー氏。

長らくワインメーカーを務めていたオーストラリア人のロブ・マン氏が2014年に離れ、後任にシャンパーニュの〈クリュッグ〉にいたフレデリック・ペラン氏が就きました。MHD(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・グループのワイン&スピリッツ事業を担う会社)傘下のこのワイナリーがさらにフランス色を濃くしたというわけです。タイトな白、どっしりとして風格のある赤、ともにロブ・マンの時代のスタイルを今のところは継承しているようです。


醸造所ではコンクリート製のエッグ・タンク、ステンレス製でバリックと同形の樽など、様々な試みがなされていた。


「カベルネ・ソーヴィニヨン2014」。熟れた黒い果実、ベイリーフ、咲ききった紅い花のアロマにオリエンタルスパイスのトーンがよぎる。

10回にわたってお送りしてきた西オーストラリア、マーガレット・リバーの旅は一旦ここで終わりにします。サーフィン・カルチャーの下地のあった場所に突然形成されたプレミアムワイン産地マーガレット・リバーは、世界でも稀な産地。ワイン自体が高品質であることはすでにお話ししてきた通りですが、ワイン・ツーリズムの訪問先としても実に素晴らしいところです。まだまだその魅力を語り尽くしていないので、ぜひまた機会を改めて「続編」を書きたいと思っています。


海岸まで出て「ケープ・メンテル ソーヴィニヨン・ブラン&セミヨン2016」を飲んだ。心地よいストーンフルーツの香りと塩味。口の中でどんどん味わいがリッチになっていく。

次回からはスペインのモンサンを旅していきましょう。

 

**クレジット

Photographs by Yasuyuki Ukita



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