SALON COLUMN

地球上で最も孤立したワイン産地❾

2019.04.21

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地球上で最も孤立したワイン産地❾

ワイナリーをさらにいくつか紹介していきましょう。〈モスウッド〉は1969年設立、マーガレット・リバーで2番目に古いワイナリーです。現オーナーのキース・マグフォード氏は79年に〈モスウッド〉に醸造家として参画し、84年に前オーナーから経営を受け継ぎました。マーガレット・リバーの中でも特に秀逸なテロワールとされる北部のウィルヤブラップ地区に2箇所のブドウ畑(「モスウッド」と「リッボンヴェイル」)を所有。白・赤共に、極めて良質で長期熟成のポテンシャルも高いワインを生産しています。

キースとクレアのマグフォード夫妻。

熟成樽が眠るセラー。テイスティングはいつもこの中で、樽に囲まれて行われる。

なかんずく、素晴らしいのは“オーストラリア最高峰”と称されるカベルネ・ソーヴィニヨンです。香りと味わいの深み、複雑さ、生命感、スケール感、すべてにおいて群を抜いています。僕自身、例えば「世界のカベルネ・ソーヴィニヨンの名品を5本挙げよ」と言われたら、迷うことなく、〈モスウッド〉をそのリストの中に入れます。

〈モスウッド〉の記念すべき初ヴィンテージ、1973年のカベルネ・ソーヴィニヨン。


雨上がりのブドウ畑には生気が漲っていた。

〈モスウッド〉を訪ねたのは、驟雨の合間の短い晴れ間のことでした。やや赤みの強いローム質土壌の畑に立つと、雨で洗われた透明な大気の下で、ブドウ樹も下草も生き生きしていました。マグフォード氏によれば、土中の微生物の活性まで考慮に入れてブドウ栽培を行っているとのこと。ワインにはエステート全体の生命力が宿っているというわけです。



リッボンヴェイルのカベルネ・ソーヴィニヨン(右)とメルロー(左)。いずれもヴィンテージは2014年。滑らかな舌触りとうっとりするような深い香りは両者に共通。


「セミヨン2016」。古木のブドウを天然酵母で自然発酵。柑橘の香りに完熟したイチジクの官能的な香りが交じる。

同じくウィルヤブラップ地区にある〈ピエロ〉は、医師だったマイケル・ペターキン氏が1979年に立ち上げました。ペターキン氏が修業を積んだのは、お隣にある〈カレン・ワインズ〉(前回のコラムで紹介)でのことでした。ヴァーニャ・カレンさんとペターキン氏はいとこの間柄です。ブドウ畑はエステートの中を流れるクリークに向かって緩やかに傾斜する土地に広がっています。「クリークに沿って海から吹き込む風が夏の昼間の温度をマイルドに保ってくれるんだ」とペターキン氏。


マイケル・ペターキン氏。マーガレット・リバーで初めて密植(密植度はオーストラリアの平均の2倍以上)にトライするなど、納得のいくワインのためには工夫を厭わず、挑戦を恐れない。

クリークに架かる丸太の橋の先にブドウ畑が広がる。

高く評価されているシャルドネは香ばしく、肉厚で、口に含むと思わず噛みたくなるような感じ。他にもセミヨンとソーヴィニヨン・ブランにほんの少しシャルドネを加えたLTC(Little Touch of Chardonnay)、リースリングとヴィオニエのブレンドなどありますが、白はいずれもしっかりとしたテクスチャーが感じられるのが特徴です。一方、ボルドー・ブレンド、シラーズ、ピノノワールと多彩な顔ぶれの赤はエレンガスに優れています。


左から、畑と樽とでセレクションを行ない、4年の瓶内熟成を経てリリースするスペシャル・キュヴェ「ヴィンテージ・リザーヴ シャルドネ2013」、代表銘柄の「シャルドネ2015」、ニック・ペターキン氏が樽発酵・樽熟成で造る「ラス・ヴィーノ エルサレム・グレース シャルドネ2016」。

ペターキン氏の息子、ニック・ペターキン氏が2013年に立ち上げたブランド、〈ラス・ヴィーノ〉では、ポルトガル品種やシュナンブランを使う、野生酵母による自然発酵、1年以上のスキンコンタクトを試すなど、実験的な造りが行われています。彼のワインはシドニーのトップレストランにオンリストされるなど、すでに好評を博しています。豪誌「グルメ・トラベラー・ワイン」で「ヤング・ワイン・メーカー・オブ・ザ・イヤー2016」に選ばれるなど、その勢いは止まりそうにありません。


父親のオーク樽と息子の球形タンクが並ぶ。


エステートの入り口に立つ「ピエロ」。

「息子とは考え方が違うんだ」とペターキン氏は苦々しげに言いますが、その目には温かい愛情が宿っているように見えました。全く違うアプローチでそれぞれのワイン造りを極める「父子鷹」、とても面白いと思います。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki Ukita



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