SALON COLUMN

地球上でもっとも孤立したワイン産地❻

2019.03.18

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地球上でもっとも孤立したワイン産地❻

カベルネ・ソーヴィニヨンと並ぶマーガレット・リバーの花形品種がシャルドネです。この地のカベルネ・ソーヴィニヨンの“聖地”が先に紹介した〈ヴァス・フェリックス〉の畑の「J1」という畝だとすれば、シャルドネの“聖地”は〈ルーウィン・エステート〉の「ブロック20」ということになります。

ホーガン夫妻(手前)とその娘でCEOのシモーネ(左上)と息子のジャスティン(右上)。

〈ルーウィン・エステート〉の創始者、デニスとトリシアのホーガン夫妻の物語は、そのままマーガレット・リバーがワイン産地として興隆していく道筋と重なります。夫妻は、配管ビジネスの取引で1969年に得たマーガレット・リバー南郊の放牧地を家族と週末を過ごすための場所として使うつもりでした。しかし同じ頃、ワイン造りの新天地を求めて西オーストラリアを訪ねていたカリフォルニアの雄、ロバート・モンダヴィ氏がこの土地の可能性を高く評価したことがホーガン夫妻の心を動かします。事情があって投資は行わなかったモンダヴィ氏でしたが、ホーガン夫妻には様々なアドバイスをします。73年、ホーガン夫妻は〈ルーウィン・エステート〉を設立。翌年にシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベック、ピノ・ノワールを植えました。

「アートシリーズ・シャルドネ2014」。熟れた黄色いフルーツのたっぷりとした香りの奥からヨードのトーンが顔を覗かせる。

それから10年も経たない82年に初リリースの「アートシリーズ・シャルドネ1980」がいきなりイギリスの「デカンター」誌で“世界最高峰のシャルドネ”の評価を受けてブレークします。この一件がルーウィンの名を世界に知らしめたのはもちろんのこと、マーガレット・リバーという新興産地の名も一気にスターダムに押し上げました。このワインに使われたブドウの大半が栽培された畑こそ、「ブロック20」でした。

「ブロック20」は「オーストラリア・ソムリエ・マガジン」2006年8月号で、「オーストラリアTOP25のブドウ畑」の一つに選ばれた。

公道からワイナリーの敷地内に入り、私道をしばらく走ると、左手にユーカリの高木に守られるようにしてひっそりと広がるブドウ畑があります。オーラがあるかと問われれば、首を傾げざるを得ないような素朴な眺めですが、それこそが「ブロック20」なのです。

〈ルーウィン・エステート〉の主要棟。2階にレストランとセラードアがある。

かつて、オーストラリアを代表するワイン評論家のジェームズ・ハリデー氏が「アートシリーズ・シャルドネ」を称して「BMWの価格で買えるロールスロイスだ」と述べたことがあります。この表現は、BMWの扱いが微妙で、当のルーウィン関係者は好んで引用することはないようですが‥‥。

「アートシリーズ・カベルネ・ソーヴィニヨン2011」。黒い果実、赤い果実、ダークチョコレート、スミレ、黒オリーブなどの香り。この年のラベルはクリス・カッパーの「スティル・ライフ」。ロバート・パーカー氏はかつてこの銘柄に「豪州の偉大なボルドースタイルのカベルネの一つ」とコメント。

ルーウィンのシャルドネの特徴を一言で表すとしたら「セイボリー」でしょうか。この言葉は、日本語にするのが難しいのですが、果実由来の甘みがたっぷりとあって、香りも豊かで、食欲を増進してくれるような‥‥と言った感じ。この「セイボリー」は最初期から28ヴィンテージにわたってチーフ・ワインメーカーを務めたボブ・カートライトのスタイルだったに違いありません。そのスタイルは16年からチーフを務めるティム・ラヴェットにも受け継がれているようです。2010年以降のシャルドネを飲むと、年を経るごとに精妙さを増している感があります。 「アートシリーズ」はルーウィンのトップレンジです。シャルドネの他、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、リースリングなどがあります。ヴィンテージ毎に替わるラベルの絵(リースリングのみ変わらず)はオーストラリア国内の新進アーティストの作品からセレクトされます(原画はエステート内のミュージアムに展示。但し、20年までは改修工事中)。このアイデアはボルドーの〈シャトー・ムートン・ロートシルト〉から拝借したもの。ここにもモンダヴィ氏からの助言があったと言われています。

白ワイン各種。スクリューキャップは2002年に導入。

「ワインは生活芸術の一部」というホーガン夫妻の考えは、エステート内で開催される「ルーウィン・コンサート・シリーズ」にも表れています。85年のロンドン・フィルハーモニック・オーケストラを皮切りに、毎年大物ミュージシャンを招いて開催されている「ルーウィン・コンサート」は、マーガレット・リバーの観光振興にも大きく貢献しています。過去の出演者には、レイ・チャールズ、ディオンヌ・ワーウィック、ダイアナ・ロス、スティング、トム・ジョーンズ、フリオ・イグレシアスといった超大物も名を連ねています。

レストランのテラス席。ここがコンサートの時には上席になる。

僕は「ルーウィン・コンサート2014」の聴衆の一人になる幸運に恵まれました。この年の出演は、5度のグラミー賞に輝いたカナダ人ジャズシンガーのダイアナ・クラールとパース・シンフォニー・オーケストラ。この忘れがたい一夜の詳細は、次回お話ししましょう。

「ルーウィン・コンサート2014」のポスター。

(つづく)

Photographs by Hiromichi Kataoka, Yasuyuki Ukita



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