SALON COLUMN

地球上で最も孤立したワイン産地❺

2019.02.28

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地球上で最も孤立したワイン産地❺

マーガレット・リバーで多くの造り手が採用しているカベルネ・ソーヴィニヨンのクローン「ホートン・クローン」について、もう少し詳しく話したいと思います。いささか専門性の高い話題になりますが、このクローンについて知っているかどうかでマーガレット・リバーの赤ワインの味わいが違ってくると思ってお付き合いください。

カベルネ・ソーヴィニヨンのヴィンテージ違い。グラスの内側を伝うラルム(涙=アルコールが高く、グリセリンが多いと出現する)が美しい。

ホートン・クローンは本来「ホートン・セレクション」と呼ばれるべきかも知れません。ホートン・クローンという単一のクローンが存在するわけではないからです。

剪定作業に勤しむスタッフ。〈ボエジャー・エステート〉にて。

1930年代、マーガレット・リバーが産地形成されるはるか前のこと、西オーストラリアの先駆者的なワインメーカーであるジャック・マンはブッシュ・ヴァイン(株仕立て)のカベルネ・ソーヴィニヨンのブドウ木から穂木を取り、パース北郊のワイン産地、スワンヴァレーの〈ホートン・ワイナリー〉の5haの区画に植えます。月日は流れ、ジャックの息子ドーハン・マンがその中から優良株の21本を選び、それらの穂木をマーガレット・リバー及び、その周辺に広がる産地に分け与えます。

〈カレン・ワインズ〉の「ディアナ・マデリン2015」(右)はカベルネ・ソーヴィニヨン主体(87%)。鮮烈にして深遠な味わい。

「うちには1971年に8種類の“ホートン・クローン”が植えられているはずだけど、どれがどれかはわからないわ。マサラ・ミックス(インド料理の混合スパイス)みたいなものね」マーガレット・リバーの先駆者的ワイナリーの一つ〈カレン〉のヴァーニャ・カレンさんはそう述べています。「ホートン・クローンの特徴は、繊細だが切れない黒鉛のようなタンニンと豊かな芳香が果てしなく続くことだね」と語るのは〈ルーウィン・ステート〉のチーフ・ワインメーカー、ティム・ロヴェット氏。また、〈ヴァス・フェリックス〉のチーフ・ワインメーカー、ヴァージニア・ウィルコックさんは「より生産性の高い南オーストラリア産のクローンと比べて、ホートン・クローンは軽快なワインを造るのに適している」と言います。「例えば、南オーストラリア産の『SA126』というクローンだと、タンニンが角張るので、青臭いえぐみを抑えるためにホートン・クローンよりも熟してから収穫しなければならないだ」と説明するのは、〈ザナドゥ〉のシニア・ワインメーカー、グレン・グッダル氏。

〈ルーウィン・エステート〉の「プレリュード・ヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨン2013」。プラム、すみれの香りにベイリーフのヒントが交じる。タンニンがシルキーで甘い。

マーガレット・リバーを代表する敏腕ワインメーカーたちのコメントから、ホートン・クローンのアウトラインが浮かび上がってきます。人々の嗜好が変化し、赤ワインに求められるスタイルが「濃くて果実味に富む」から「飲みやすくニュアンスに富む」へとシフトした昨今、ホートン・クローンの持つ特徴が歓迎されるのは当然のことでしょう。また、僕が繰り返し述べてきた「松葉を噛むような苦味」がこの産地のカベルネ・ソーヴィニヨンに出るリスクについても、前回のコラムで〈ヴァス・フェリックス〉のマイケル・ラングリッジ氏が話してくれたように、このクローンを選ぶことで回避されるのであれば、それに越したことはありません。

〈モス・ウッド〉の「リッボン・ヴェイル・ヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨン2014」。マルベリー、黒オリーブ、リコリスなどの複雑で深みのある香り。

南オーストラリア産のクローンがこの地で理想的でなかったことは、とても興味深い話です。このシリーズのタイトルに掲げているように、マーガレット・リバーは地球上で最も孤立したワイン産地であり、同じオーストラリアといえども、南オーストラリアとは全く異なるテロワールを有するのですから。

〈モス・ウッド〉のブドウ畑。

ところで、ここまで目の敵のように批判的に言ってきた「松葉を噛むような苦味」について、少し補足させてください。正直に言うと、僕はその風味が決して嫌いではありません。もし、マーガレット・リバーの赤ワインから完全にそれが無くなってしまったら、むしろ悲しいだろうとさえ思っています。もちろん、そこは程度の問題なのですが‥‥。ラプサンスーチョンという紅茶をご存知でしょうか? 茶葉を松葉でスモークして香りをつけたもので、強烈にクセのある香りがします。初めてこの香りを嗅いだ時は、思わず顔を背けましたが、飲むうちにこのお茶にしかない魔力に惹きつけられ、病みつきになってしまいました。マーガレット・リバーのカベルネ・ソーヴィニヨンが持つ独特のフレーバーは僕にこの風変わりなお茶を思い出させるのです。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki Ukita
Special thanks to Sarah Ahmed and her website THE WINE DETECTIVE



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