SALON COLUMN

地球上で最も孤立したワイン産地❸

2019.02.01

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地球上で最も孤立したワイン産地❸

すでに1965年には西オーストラリアの南西部で試験的にブドウの苗を植え始めていたトーマス・カリティ(トム・カリティ)博士は、既述のジョン・グラッドストーンズ博士(西オーストラリア大学)による「この土地はプレミアムワインの生産に理想的である」という調査結果を見ると、〈地表から深さ18インチのところに粘土層が横たわる、レッドガムの生えた赤い砂利の土地〉を探します。レッドガムは棘のある実の成る高木です。

トトム・カリティ博士。植えられているのはリースリングであるらしい。©️Vasse Felix

この頃、地元の人々の間では「パースから来た“マッド・ドクター”が原野に土地を買って、ヌーディストのためのコロニーだか夫婦間のスワッピングを奨励するカルトの本拠だかを作ろうとしている」と言う噂が立ったと言います。1年を費やし、ついに理想的な土地を見つけたマッド・ドクターことカリティ博士は67年、そこにカベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、マルベック、そしてリースリングの苗木を植えます。この時がワイン産地マーガレット・リバーの誕生の時とされています。

最初に植えられたカベルネ・ソーヴィニヨンの区画。

〈ヴァス・フェリックス〉の名の由来にはちょっと風変わりなエピソードがくっ付いています。それは、こういう話です──19世紀初頭、オーストラリア亜大陸の南西部の海岸線を調査するため、フランスが2艘の船を派遣した。モーリシャスから出た船は目的の海岸線には到達したものの、冬の嵐に見舞われ、巨大なうねりに翻弄されてしまう。この時、船員の一人、トマ・ティモシー・ヴァスという男が行方不明に。当初は海に落ちて溺死したと思われていたが、翌年になって様々な噂が立ち始める。ヴァスの失踪は格好の話題になった。彼は死んだ? それとも岸に泳ぎ着いて先住民のコミュニティで暮らしている? オーストラリアで生き延びた? アメリカ人の船員に救出された? あるいはイギリスに連行されて投獄された? 話題はフランスの雑誌に取り上げれ、人々の意見は分かれた。一体、哀れなヴェスの身に何が起こったのか?

1972と73のカベルネ・ソーヴィニヨン。小さく、マルベックの文字が入っている(マルベックの話題は次回)。

歴史好きだったカリティ氏はこのエピソードがお気に入りだったらしく、哀れなヴァスの苗字に「幸運」「幸せ」を意味するフェリックスという言葉を足してヴァス・フェリックスとして自らの興したワイナリーの名前にしたと言うのです。なんだか、ちょっと風変わりなネーミングではないですか?


ワインメーカーのマイケル・ラングリッジ氏。


プレミア・レンジの3本。右から、シラーズ2014、カベルネ・ソーヴィニヨン2014、ソーヴィニヨン・ブラン&セミヨン2016。

最初の収穫は71年、樹齢4年に達した木から行われました。しかし、腐敗とシルバーアイという野鳥の食害で散々な結果だったそうです。「あの憔悴と落胆は生涯忘れない」とカリティ博士は語っています。初めてワインがボトル詰めされて世に出たのは72年、リースリングとカベルネ・ソーヴィニヨンでした。そのリースリングがいきなりパースの見本市で金賞を獲り、「マーガレット・リバー」の名に最初のフットライトが当たります。翌73年にはカベルネ・ソーヴィニヨンが同様の賞に輝きます。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki Ukita



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