SALON COLUMN

もう一つの高貴な泡、フランチャコルタ❾

2018.12.26

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もう一つの高貴な泡、フランチャコルタ❾

すでに述べてきた通り、フランチャコルタは後発の産地です。新しく産地形成がなされた土地では大抵、大きな資本の投下による企業経営のワイナリーばかりが建てられることになります。その点、家族経営の「サン・クリストーフォロ」は異色の存在と言えます。


自らのスタイルを貫いてフランチャコルタを造るブルーノ・ドッティ氏。

地元エルブスコで生まれたブルーノ・ドッティ氏が燃料関係の仕事をしていた家族の反対を押し切って、ワイナリーを設立したのは1992年。一からスタートして、最初のフランチャコルタをリリースしたのは96年のことでした。畑の広さ10ha、年間生産量6万本という数字は、この地方では零細と言ってもいい規模です。しかし、小ぢんまりとしたビジネスだからこそ、造り手の個性を明確に打ち出すことができ、飲み手にとっては理解が容易で、印象に残りやすいとも言えます。

「パ・ドゼ2012」は澱と共に瓶内で熟成すること40カ月。この工程を長く取ることで、味わいに奥行きを与えている。

ドッティ氏のフランチャコルタには本人の好みがストレートに現れています。甘ったるいワイン、ベタベタとしたワインは嫌い。彼が好むのはドライ&クリスピーなワイン。フレッシュでキリリと酸の利いたワインです。サテンを造らないのも自分の好みに合わないスタイルだから、とその主義主張は一貫しています。

庫内でボトルを移動する際は破裂の危険があるので、こんなシールド付きヘルメットを被る。

チェレステさんが制作したアートが醸造所に飾られている。

ドライ&クリスピーを実現するため、搾汁率は50〜55%に下げます。ブリュットではデゴルジュマン(澱抜き)の際、「門出のリキュール」を入れる代わりにワインを入れてボトルを満たします。ブリュットの残糖度は1%未満。これを試飲してみると、未熟なパイナップルやパッションフルーツのトーンが生き生きと感じられ、その背後から洋梨やブリオッシュの香りが静かに立ち上がりました。フレッシュだけれども決して単調ではないのは、瓶内熟成期間が33カ月とたっぷり取ってあるからでしょうか。後口には再び清々しいキレが。心を洗われるようなワインです。

左から、「チェレステ2009」「パ・ドゼ2012」「ブリュット」。

今年26歳になるドッティ家の娘チェレステさんはワイナリー設立の年に生まれました。家業のPRの仕事から始め、今では父ブルーノさんの仕事を少しずつ後継しています。そんな“2代目”の名前を冠した「チェレステ」はシャルドネ100%のパ・ドゼ(ドザージュ・ゼロ)。6年間もの瓶内熟成を経て世に出されるスペシャル・キュヴェです。

カブール君はこのワイナリーのセキュリティ担当。


「チェレステ」を手にするチェレステさん。

2009年の「チェレステ」を試飲してみましょう。豊かな酵母香の奥から人懐っこい蜂蜜のトーンと甲殻類を想起させるような海のミネラル感が立ち上がります。口に入れた時の「ドライ&クリスピー」な味わいはこのキュヴェにおいても、姿勢の良いアスリートの背骨のように、シュッと貫かれています。全体的には、上品に仕立てられたシルクの、淡い色合いのカクテルドレスのような印象でした。こんな素晴らしいワインを造って自分の名前を付けてくれる、そんな父親のことを娘が嫌うはずがありません。

家族勢揃い。左端がクラウディアさん。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki Ukita



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