カルチャースクールの課外講座
2018.10.04
池袋のカルチャースクールで毎月第4土曜に受け持っていたワイン講座が終了した。スクール自体が閉校となるため、終了せざるを得なかったのだが、初講座から19年。あと1年で20年と思うと残念な気もする。
月一度の講座だから、もちろんソムリエ資格を狙えるほどの知識がつくわけではない。右も左もわからない初心者が、ワインショップやレストランで店の人にすすめられるがままワインを買うのではなく、自主的にワインを選べるようになることを目標とした。
「オーストラリアのシラーズが好み」とか「ロワールのソーヴィニヨン・ブランは苦手」と言えるようになるだけで、ワイン選びの確度が格段に上がる。それで毎月ひとつのブドウ品種をテーマにして、異なる産地のワインを4種類ほど試飲してもらった。イタリアの地品種やスパークリングワインの回もつくり、1年間12回の受講で、だいたい自分の好みがはっきりするという内容だ。
ふたを開けてみると1年で止めず、2年、3年と続けて受講してくださる生徒さんが多かった。なかには初講座の19年前から、途中、休みを挟みながらも通い続け、最後の講座に出席してくださった生徒さんもいる。ありがたいことである。
講座はテイスティングのみなので、ワインの醍醐味のひとつである、食事との組み合わせを試すことができない。それで年に一度か二度、課外授業と称して、レストランに行き、ワインと料理のマリアージュを楽しんだ。最後の講座の後も、練馬区桜台のイタリア料理店「イタリアーノ・プント・ヴィーノ・エ・サチ」を訪ね、お別れ会を兼ねた課外授業を催すことになった。
人数は私を含めて11名。ワインが1本だと一人あたりの分量は70ccにも満たない。それで同じワインを2本づつ注文することも考えたが、ひとつの料理に2種類のワインを選び、サイドバイサイドで比べながら、相性を試してみようとの結論に落ち着いた。お店の方はグラスの用意がたいへんだが、対処してくださるという。
乾杯のスプマンテのあと、前菜の盛り合わせに選んだのは、マルケ州のヴェルディッキオ・ディ・マテリカとプーリア州のフィアーノの2種類。前菜は天然真鯛のカルパッチョ、ナスのスフォルマート、モルタデッラソーセージ、水牛のモッツァレッラ&トマトだから、イタリア中部から南部の、海沿いのワインが良さそうと思った。ヴェルディッキオ・ディ・マテリカは、もうひとつの産地カステッリ・ディイエージと比べると内陸に位置し、より凝縮したタイプが多いものの、このワインは酸もしっかりしていてミネラルが感じられ、なにより後口のほろ苦味が食欲を沸き立ててくれる。前菜にぴったりのワインだった。フィアーノもこの品種らしい華やかなアロマが高印象だったが、盛り合わせに対する汎用性では香りのニュートラルなヴェルディッキオに軍配が上がる。
パスタは生ハムを入れたカボチャのラビオリ。前菜の時よりもパワフルな白、しっかりめのロゼ、軽めの赤と悩みながら、この店のマダムにしてソムリエを務める幸子さんの意見も取り入れ、トスカーナ州のモンタルチーノ産のピノ・グリージョと、同じくトスカーナ州のキャンティ地区で造られたサンジョヴェーゼのロゼにした。これがなかなか面白い対決だった。ピノ・グリージョは樽のしっかり効いたタイプで、カボチャの甘味やねっとりしたテクスチャー、生ハムの香ばしさとも合う。一方のロゼは樽の使われていないすっきり系ながら、酒質はしっかりしていてラビオリをきれいに包み込む包容力がある。生徒さんたちの評価は白ワインのほうが圧倒的に高かったものの、私個人はこのロゼもかなりいけると思った。
メインはフランス・ランド産ハトのローストで、ハトからとったフォンとチョコレートのソースが絡めてある。ワインはここで北上。ピエモンテ州のバローロとヴェーネト州のアマローネを俎上にのせた。バローロはハトのもつ血っぽさと、アマローネはソースに含まれるビターチョコのニュアンスとの調和を図ってのチョイスである。どちらも甲乙つけがたい組み合わせだったが、生徒さんのお気に入りはアマローネだったようだ。ジューシーなハトのテクスチャーといい、カカオの香ばしいソースといい、アマローネのほうにより調和のポイントが高かった。
デザート時には、生徒さんが持参した05年のイグレックと99年のポル・ロジェ・サー・ウィンストン・チャーチル。イグレックは私のイニシャル「Y」に合わせて、ウィンストン・チャーチルは講座を始めた年の99年いうお気遣い。月一の講座は終了したけれど、またこのような課外講座で会いましょうと言って、別れたのである。