SALON COLUMN

「丘」という名のワイン産地へ❻

2018.08.16

048

「丘」という名のワイン産地へ❻

「ヨーロッパ・ワイン」というカテゴリーがあるのをご存知ですか? 僕はつい最近まで知りませんでした。イタリア北東端のワイン産地、コッリオからのレポートの最終回はこの地を代表するワイナリーが最近始めた興味深い試みについて紹介します。

アルベルト・プリンチックさんと妻のジュリアさん。


「グラディス・チウッタ」(日本の輸入元は株式会社中島董商店)は、スロヴェニアとの国境に広がる村サン・フロリアーノ・デル・コッリオにあります。ワイナリー名はこの村の近くにある丘の上の集落の名から付けられましたが、元々はラテン語で「ワインの山」を意味するモンスヴィーニと呼ばれていた土地。古くからブドウ栽培(=ワイン造り)の適地として知られていたことがわかります。

穏やかな白い花の香りを持つとソーヴィニヨン(右)と、より強い花のアロマを持つフリウラーノ。直線を基調にした独特のボトルデザインは黄緑色のキャップシールとともにコッリオのトレードマーク。環境に配慮し、軽量のボトルになっている。


ロベルト・プリンチックさんが父祖伝来の土地とブドウ畑を引き継ぎ、ワイナリー「グラディス・チウッタ」を興したのは1997年。以来20余年を経て、ワインは安定した評価を獲得、ロベルトさん自身はコッリオ生産者協会の代表を務めるまでになっています。

コッリオのシンボルカラーである黄色にペイントされたヴェスパ。取材陣にはこのヴェスパでブドウ畑を巡るアトラクションが用意されていた。

例によって、リボッラ・ジャラから試飲をスタート。ピノグリージョ、フリウラーノ、ソーヴィニヨン・ブラン、マルヴァジーアと白のモノセパージュ(単一品種)を試しました。産地を満遍なく表現するポートフォリオと言えます。いずれも品種特性がよく出ていてわかりやすく、バランスが取れて飲みやすいワイン。ロベルトさん自身、とても人当たりがよく、尊大さやアグレッシブなところのない、穏やかな人物ですが、そんな彼の個性がそのままワインに出ているようです。

テイスティングを待つ「グラディス・チウッタ」の各アイテム。

試飲用ボトルの並んだテーブルに白とロゼ、2種類のスパークリングが並んでいました。ワイン法上、スパークリングやロゼは「コッリオDOC」を名乗ることができません。が、それはあくまでも規制の話。同じ造り手が造ったものならぜひ飲んでみたいものです。さらに言えば、正直なところ、それまでの数日間、ほぼ白のスティルワイン一辺倒だったので、そろそろ泡でも‥‥という気分になっていたのでした。

「シネフィニス・レボリウム」(ブリュット)。生産本数は5000本のみ。

スパークリングの名前は「シネフィニスSinefinis」。ロベルトさんによると、意味は「ボーダーレス(境目なし)」とのこと。そしてロベルトさんが一人の男性を紹介してくれました。マティアス・チェトゥルティチさんはここから車で10分くらいの近所で「フェルディナンド」というワイナリーを経営している人です。“近所”とは言ってもそれは国境の向こう側ですが。

「シネフィニス・ロゼ」(ロゼ・ブリュット)。熟れた赤い果実のトーンに引き込まれる。

「シネフィニスは今から11年前に僕とマティアスとで立ち上げたプロジェクトなんです」とロベルトさんが説明してくれます。「元々われわれが暮らす土地は一つの国に属していました。それが1947年に国境が引かれ、イタリアとスロヴェニアに分けられてしまったのです。同じテロワールを持つ土地をこちら側では“コッリオ”と呼び、あちら側では“ブルダ”と呼んでいます。シネフィニスのブリュット『レボリウム』は僕とマティアスのそれぞれの畑のリボッラ・ジャラを半分ずつ合わせて、メトド・クラシコ(シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵製法)で造ったものです。ロゼ・ブリュットの方は、ピノノワール60%とリボッラ・ジャラ40%で造りました」

スロヴェニア側からやってきたマティアスさん(左)とアルベルトさん。二人の間に国境はない。

飲んでみると、「シネフィニス」はブリュットもロゼ・ブリュットも、慈しみ深い酵母の香りと適度な深みのある味わい、特にブリュットには飲み手に失くしてしまった大切なものを思い起こさせるような、泣きたくなるようなトーンがありました。2つの国のブドウで造られたこれらのワインはイタリアやスロヴェニアのワイン法の規定を外れています。ゆえにバックラベルには「Vinos de Europe(ヨーロッパのワイン)」と記されています。このコンセプトに僕は頭を叩かれたような気がしました。「テロワール」ということが言われるようになってから、ワインは「いかに狭い範囲で造られているか」を競うような部分があります。それこそが個性であり、価値である。それはそれで正しいのでしょう。が、一方でコッリオとブルダのように、元々は一つだったテロワールが政治的な理由で分断されてしまい、本来のアイデンティティーを失ってしまった土地があります。ボーダーを超えて一つのワインを造ることで(エリアは広がってしまいますが)、それを取り戻すこともできるとしたら‥‥。「シネフィニス」がわれわれに問いかけているものは、ワインの味わいを超えて、とても大切なことだと僕は感じました。


コルモンソの16世紀の教会の祭壇に施された聖ジョルジョのドラゴン退治のレリーフ。現代の「ドラゴン」は何か? と考えながらコッリオのワインを飲むのも悪くない。

Photographs by Yasuyuki Ukita



――――――――――  おすすめ記事一覧  ――――――――――

―――――― おすすめ記事一覧 ――――――



“C”をめぐる冒険❻


“C”をめぐる冒険❺


“C”をめぐる冒険❹


PAGE TOP
8,000円(税抜)以上ご購入で送料無料キャンペーン中