SALON COLUMN

「丘」という名のワイン産地へ❺

2018.08.15

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「丘」という名のワイン産地へ❺

一つのワイン産地を取材で訪ねると、多い日で1日に4軒のワイナリーを訪問します。それとは別に、複数のワイナリーが現地のレストランなどに一堂に会して合同テイスティング会を開くこともあります。そういう風にして4、5日も産地で過ごすと、20人前後の生産者と出会い、彼らのワインを飲みながら話を聞くことになります。不思議なことに、必ずと言っていいほど毎回、他の生産者とは明らかにかけ離れた、抜群の生産者が現れるのです。僕は、そういう頭抜けた生産者のことを、古いテレビ番組のタイトルを拝借して、密かに「突然ガバチョ!(略称=突ガバ)」と呼んでいます。

試飲会場で頭抜けたワインに出会った。

コッリオにおける「突ガバ」は、アレッサンドロ・パスコーロ(Alessandro Pascolo)さんでした。20社ほどの生産者が集まったテイスティング会場で、彼がグラスに注いでくれたワインは瑞々しさと表現力において、傑出していました。

パスコーロの窓。

アレッサンドロさんのワイナリーはコッリオの中でも特に美しい景観のルッタルスという村にあります。南北に連なる細長い丘の両斜面に、見るからに日当たりの良さそうなブドウ畑が広がっていました。一帯の土壌はポンカ(ponca)と呼ばれるもので、粘土と砂岩を多く含みます。海洋由来の土壌であることを示す化石がたくさん見られるとのこと。丘の頂きでその絶景を支配するように立つのがアレッサンドロさんの住居兼ワイナリーです。

谷間を挟んでお隣のブドウ畑を望む。この辺りはコッリオの中でも最も美しい景観が続く。

東向き斜面のブドウ畑を見下ろす草原でアレッサンドロさんの話を聞きました。 「下の方に見える若い木は1年前に植えたものです。品種はフリウラーノ、リボッラ・ジャラ、マルヴァジーア。今、DOCG(イタリアのワイン法上最高の格付け)認可に向けて準備が進む『コッリオ・グラン・セレッツィオーネDOCG』にふさわしいワインを将来的に造るために改植したものです。20年前に父がここでワイン造りを始めた時に15種類のブドウを植えて、どれがこの土地に合うかを試してきましたが、次第に絞り込みました。赤はメルローだけです」


パスコーロの東向き斜面の畑。

彼のワインを改めて試しながら、さらに話を聞きました。僕が知りたかったのは、もちろん、なぜ彼のワインが傑出した出来栄えになるのか、そのワケです。 「特別なことはしていません。畑では収量を減らして、良いブドウが実るようにしています。収穫のタイミングには細心の注意を払います。抽象的な言い方になりますが、早すぎても遅すぎてもダメ。ちょうどいい時を見計らって一気に収穫します。醸造ではなるべく人的な介入はしたくないので、発酵・熟成ともにステンレスタンクを使っています」


パスコーロのマルヴァジーア。

ソーヴィニヨン・ブラン、フリウラーノ、マルヴァジーア、改めてワインに瑞々しさを感じます。要するに彼の仕事はすべてが「的確」なのだと僕は理解しました。

300本だけ造られたメルロー。

赤は特別なワインが用意されていました。「メルロー・セレッツィオーネ2011」のマグナム。アレッサンドロさんによると、この年は不作年で、雹害でブドウの75%がやられてしまったとのこと。辛うじて残った25%のブドウを使って丹念に造ったワインはマグナムボトル300本のみでした。僕は常々、不作年のワインにこそ、造り手の真価が発揮されると信じています。「メルロー・セレッツィオーネ2011」はアルコール度数14%でありながら、極めて穏やかで優しい印象。幼い頃、枕元で母親が読んで聞かせてくれたおとぎ話‥‥そんなイメージが湧く、素晴らしいワインでした。

良作年のみに造られ、納得のいくまで寝かせられるリースリング。

さらにもう1本、どうやら予定外だったワインが開けられました。ワインメーカーとウマが合って、盛り上がり、次々とお宝が開いていくことほど幸福なことはありません。最後の1本はコッリオに来て初めてお目にかかるリースリングでした。ヴィンテージは2007。しかし、これが最新ヴィンテージだとのこと。「良い年にしか造らないんです。そして納得のいくまで寝かせてからリリースします。このワインは10年もかかってしまいまいた。次回リリースするのは2015年物になると思います」。こうなると、もうコレクション・アイテム以上のレアっぷりです。10年間ステンレスタンクで眠ったリースリングは驚くほど若く、堅牢なミネラル感に支えられてピシッと背筋が伸びていました。その味わいは品種特性よりもコッリオのキャラクター──白い花、ストーンフルーツ、干し草、多様なミネラル──を強く反映しているように感じました。

コッリオの「突ガバ」こと、アレッサンドロ・パスコーロさん。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki Ukita



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