「丘」という名のワイン産地へ❹
2018.07.30
コッリオのワインの相方となるフリウリ=ヴェネツィア・ジュリアの食材と料理を見ていきましょう。食材で有名なのは、牛乳で作るセミハード・チーズ「モンタジオ」とサン・ダニエーレの生ハム「プロシュット・ディ・サン・ダニエーレ」です。
コッリオの中心都市、ゴリツィアの古城から町並みを見下ろす。
モンタジオをカットする生産者。
モンタジオはイタリア・スロベニア国境に聳えるイオフ・ディ・モンタジオという山の周辺で暮らす人々にその昔、修道士が製法を伝えたとされ、起源は13世紀とも言われています。牛乳のコクを感じさせるクセのない味わい。熟成するとトロピカルフルーツのような香りが出てきます。これを使った最もポピュラーな料理がフリコ。細かく刻んだモンタジオに小麦粉と水を加えたものを表面がカリカリになるまで焼きます(あるいは揚げる)。フリコにはジャガイモやタマネギを加えて作るレシピもあります。料理と呼ぶにはあまりにも素朴で、ストリート・フードやお祭りの屋台で買う軽食といったイメージですが、風味良く、食感も面白くて、コッリオの白ワインとの相性も抜群です。
フリコ。これはジャガイモとタマネギの入ったレシピ。
プロシュット・ディ・サン・ダニエーレは州のほぼ真ん中に位置するサン・ダニエーレ・ディ・フリウリというコムーネ(村)だけで作られます(生産者は約30軒)。見かけも味もプロシュット・ディ・パルマ(パルマの生ハム)とよく似ていますが、サン・ダニエーレは生産地域が限定されている分希少性が高く、値段も高くなっています。繊細な味と香り、脂の甘みが楽しめるサン・ダニエーレ。切りたての風味は格別です。ワインは白かスプマンテに合わせることが多いようです。
サン・ダニエーレは極薄にカットして。
リヴォン社の「ソラルコ」はフリウラーノとリボッラ・ジャラを半分ずつブレンド。フードフレンドリーな良いワインだ。
串揚げ状にしたフリコ。
あるワイナリーを訪ねたとき、ランチに苦味のあるハーブを使ったフリッタータ(卵焼き)が出てきました。レストランで注文したアスパラガスのオルゾット(大麦で作るリゾット)にも同じようなハーブが。聞くとスコルピット(シラタマソウ)という野菜だそうで、見た目はユーカリの葉のようです。その苦味から僕が連想したのは春菊でした。コッリオのワインには元々ハーブや干草のトーンがあるので、スコルピットを使った料理との相乗効果もバッチリでした。
スコルピット入りフリッタータ。
スコルピットとアルパラガスのオルゾット。
地図で見ると、この辺りはアドリア海まで15kmほどですが、食文化から見ると、明らかに「山野の食」のカテゴリーに入るなという印象を受けました。地勢的にスロベニアやオーストリアとの結びつきが強いという歴史が食にも影響を与えているのでしょう。
ヴェニカ&ヴェニカ社の「ペトリス マルヴァジーア」は柔らかな飲み口。
最後に紹介するのは、僕がこの旅で一番夢中になった“甘いニョッキ”です。「ニョッコ・コン・スジーナ」はプルーンのコンフィチュールが入ったニョッキで、甘い蜜と千切りにして揚げたチーズ、シナモンをかけて出されます。もっちりとしたニョッキの食感とジャガイモの優しい味にプルーンの甘酸っぱさがよくマッチします。その味から僕が連想したのはアンズ大福でした。腹持ちのよいドルチェ(デザート)という感じですが、地元の人たちはこれを前菜として食べるようです。
甘いニョッキ”に夢中。
ニョッコ・コン・スジーナの断面はこんな感じ。
隣り合う村と村でも個性が異なるイタリア。そんなこの国の文化の特質を端的に表す言葉に「カンパーナリズモ」があります。カンパーナとは教会の鐘のこと。村々で鐘の音が異なるように、食やワインも異なるというわけです。コッリオをめぐる間、僕の頭に何度もカンパーナリズモという言葉が蘇りました。
(つづく)
Photographs by Yasuyuki Ukita