SALON COLUMN

丘」という名のワイン産地へ❸

2018.07.10

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丘」という名のワイン産地へ❸

コッリオの生産者を紹介していきましょう。「ストゥルム(Sturm)」の当主はデニス・ストゥルムさん。比較的雨が多く、湿度が高いコッリオ(年間降水量は700〜800mmで東京の半分程度)では実践が難しいとされるブドウのオーガニック栽培に挑戦しています。


デニス・ストゥルムさん。

ファミリーのルーツは200kmほどの東、オーストリア第2の都市グラーツだとのこと。「150年くらい前にここに移ってきました。私が5代目になります」とデニスさん。本人はミラノで経営を学び、ゴールドマンサックスに就職することがほぼ決まっていたところ、父親に呼び戻され家業に入りました。2006年のことだそうです。当初は週に3日はワイナリーで働き、残りは経営アドバイザーの仕事をしていました。しかし、不況に見舞われ、アドバイザーのほうの仕事は手放し、ワイン造りに専念することに。「祖父の代はブドウだけでなく、さまざまな作物を作る農業をしていました。父の代でワイン造りに特化しました。父はフランスのしっかりと樽のきいたような白ワインが好きでしたが、私はドイツのリースリングが好きなので、フレッシュでエレガントなスタイルに方向転換しました」


ブドウ畑と森がパッチワークを成すコッリオの典型的な風景。

2010年、息子のアキーレ君が誕生したのを機に、デニスさんはオーガニックに取り組むようになりました。2年後には娘のカミッラちゃんも誕生。「子供たちにどんな世界を見せたいかと考えたとき、当然の答えとしてオーガニックへの道を選んでいました」 現在、12haの自社畑はすべてオーガニック認証を受けています。一部買いブドウも使っているので、製品の100%がオーガニックとは言えないけれど、6年後には100%するつもりで、すでに道筋はできているとのこと。ボトルを通常のものよりも20〜25%軽いものにすることで、CO2の削減にもコミットしています。


フリウリ・ヴェネチア・ジュリア地方が震源地の一つになっている
オレンジワインの流行について、デニスさんは「あれは酸化した飲み物。
僕の目指すワインとは真逆の方向性だ」と批判的。

「ストゥルム フリウラーノ2017」を試飲させてもらいました。クチナシの花、ローズマリー、日向夏を思わせる和の柑橘の香りに白桃の優美な甘い香りが交じります。クラッカーの香ばしさ、乾いた芝のようなトーンも。実はわれわれの訪問はアポなしの突然のことで、ちゃんと温度管理されたボトルがなく、常温に近い状態だったものを慌てて氷水に入れて冷やしたのでした。サーブされた温度が高かったにも関わらず、このワインには清涼感とピンとした背筋のようなテンションが感じられました。重さや甘ったるい感じはなく、軽やかでニュアンスに富んだワインでした。


娘の描いたスケッチがラベルに。

ラベルにはイタリア人なら誰でも知っているスケッチブックのメーカー、ファブリアーノ社の再生紙が使われていると聞いて、ちょっと嬉しくなりました。じつは僕は何年も前からファブリアーノのA5判スケッチブックを取材ノートとして愛用しているのです。ラベルにはボールペンで描かれた抽象画のような図柄が刷られています。聞けば、それは娘のカミッラちゃん(6歳)が描いた「嵐」だとのこと。ワインの汚れのない後味を楽しみながら、デニスさんがオーガニックに挑戦したきっかけをもう一度頭の中で反芻しました。同行のワイン・ジャーナリト3人が口々に賞賛の言葉を述べ、等しくお代わりをせがみました。もちろん、僕も空になったグラスをデニスさんに差し出しました。


地元のワインイベントでサービスの手伝いをしていた少年。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki Ukita



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