SALON COLUMN

「丘」という名のワイン産地へ❶

2018.06.25

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「丘」という名のワイン産地へ❶

グッド・ワインを探す旅、今回はゴルフ場からスタートします。ワインの話なのに、なんでゴルフ場?そう思われるのも無理はありませんが、ゴルフとワインって案外仲良しなんですよ。

ブドウ畑と公道の境に気づかれた塀の装飾。



中世の古城に向けてティーショット。

やってきたのはイタリア北東部、フリウリ・ヴェネチア・ジュリア州。中でもスロベニアとの国境に近い地域です。ワイン法上の名称で言うと「DOCコッリオ(Collio)」のエリア。コッリオは華やかな香りを持つ白ワインで知られている産地です。




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ブドウ畑に囲まれたグリーン。

ファーマーズ・コテージの一つ。

僕が滞在した「カステッロ・ディ・スペッサ」は、13世紀に遡る長い歴史を持つ城館とその周囲に広がる広大なエステートを生かしたゴージャスなワイン・リゾートです。旅行者は、スペッサ城内の客室の他、農夫の家をリノベーションしたファーマーズ・コテージやブドウ畑の真ん中に立つヴィンヤード・アパートメントに滞在することができます。城館の立つ丘の裾野に広がるゴルフコースは、ブドウ畑とサイド・バイ・サイドにレイアウトされ、四季を通じて変化するブドウ樹の様子をつぶさに眺めながらラウンドを楽しむことができます。

カフェテリアの窓から。

自転車でブドウ畑をゆく人々。

ツーリストのワイナリー訪問のガイド役も務めるキアラさんが城内を案内してくれました。 「前庭に立っていた像をご覧になりましたか? ジャコモ・カサノヴァです。1773年にこの城館を訪れ、2カ月間過ごしました。他にもロレンツォ・ダ・ポンテなど、歴史に残る人物がここに滞在しています」

地下のセラーは元防空壕。

ジャコモ・カサノヴァはヴェネツィア出身のマルチタレントで、政治家、劇作家、冒険家、そしてスパイとして知られている人。生涯に1000人の女性と関係を持ったと言われ、放蕩・乱交愛好者のシンボルと見なされています。一方、ダ・ポンテは詩人でオペラの台本作家。モーツァルトの3つの作品──『フォガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』──の台本を書いたことで知られています(『ドン・ジョヴァンニ』の制作にはカサノヴァも参加したという説がある)。「カステッロ・ディ・スペッサ」のXOブランデーにはカサノヴァの名が付けられています。 城館の地下には石造りのセラーが広がっていました。キアラさんによると、そこは1939年にドイツ軍の侵攻からエステートとその周辺の人々が身を隠す防空壕として掘られたものだそうです。87年に現在のオーナーであるパリ家がエステートを買い取って以降はワインを眠らせる場所になりました。こんなところにも、この土地の複雑な歴史が濃い影を落としています。

カサノヴァの名が付けられたブランデー。

カフェテリアで「カステッロ・ディ・スペッサ」のワインの試飲をしました。まずは「リボラジャッラ2017」。リボラジャッラは後出のフリウラーノと並んで、コッリオを代表する白ブドウ品種です。城内にはこのブドウについて1575年に記された古文書も残されていました。洋ナシやメロンの香りに芝草を思わせる独特のグラッシーなトーンが交じります。口の中ではキリリとした酸と石のミネラルが感じられますが、全体としては軽やかな印象でした。

「リボラジャッラ2017」

次に試したのは「フリウラーノ2017」。むせ返るような白い花のアロマ。口の中ではやはり石を舐めるようなミネラル感があります。リボラジャッラと比べると、厚みがあってタフな印象。2本のワインはいずれも、きれいな造りで、今回の旅におけるワイン批評の指標になる予感がありました。コッリオとは「丘」という意味だそうです。次回からは丘また丘の風景を眺めながらワイナリーを巡り、この土地独特のご馳走も逐次紹介していきたいと思っています。


クラブハウスの壁に飾られたプレート。丘が繰り返すこの土地の様子をよく描いている。

(つづく)

Photographs by Yasuyuki Ukita



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