ディルの香るフランス産ホワイトアスパラガスとR.S.R.V.ロゼ・フジタ
2018.06.07
先日、ローラン・ペリエのキュヴェ・ロゼというロゼ・シャンパーニュを紹介したばかりだが、それから1週間もしないうちに新しいロゼ・シャンパーニュのお披露目に立ち会った。G.H.マムの「R.S.R.V.ロゼ・フジタ」である。 フジタとはエコール・ド・パリを代表する画家であり、今年没後50周年を迎えたレオナール・フジタこと藤田嗣治のこと。
晩年、フジタは当時のマム社社長ルネ・ラルーと親しく、ランスの大聖堂でカトリックの洗礼を受けた際にはラルーが洗礼親になったほど。その後、マムの敷地内に礼拝堂を建てるにあたり、フジタがその設計と内装を請け負った。壁のフレスコ画にはフジタ本人とラルーの姿が描かれている。 そのような縁から名付けられたR.S.R.V.ロゼ・フジタだが、マムには58年に登場したスタンダードなロゼもあり、それとの違いが気になるところ。
R.S.R.V.シリーズにはすでにリリース済みのブラン・ド・ブランとブラン・ド・ノワールがあり、このロゼが3作目となる。 R.S.R.V.とはRéservé=Reserved(お取り置き)を意味し、かつてマム社を訪れた賓客に特別に献上されたシャンパーニュのこと。ラベルはなく、ボトルにはR.S.R.V.と書かれていたそうだ。今日のR.S.R.V.はすべてグラン・クリュのブドウのみから造られる上級キュヴェを指し、ロゼ・フジタの場合、ヴェルズネイ、ブージー、アイのピノ・ノワールと、クラマン、アヴィーズのシャルドネとをアッサンブラージュした白ワインに、アンボネイのピノ・ノワールから造られた赤ワインを加えている。さらに熟成期間も通常より長く、4年におよぶ。
「夏の夕方、日が落ちて空の色がピンクやオレンジに変わる頃。気温は下がり始めたのに、まだ日中の暑さが残っている状態をイメージした」とは、来日した最高醸造責任者、ディディエ・マリオッティのコメント。
「ブラッドオレンジや潰した赤い果実のフルーツソースを思わせるフレーバー。スパイシーさもそれに加わる」という。 グラスに鼻を近づけると、真っ先に香ってきたのがブラッドオレンジで、ディディエの言うとおりと思わず膝を叩いた。味わいはかなりドライ。ドザージュはわずか6グラムというから、あと1グラム少なければエクストラブリュットである。 お披露目は赤坂の「ピエール・ガニエール・トーキョー」で。
その後にブランド・ブラン、ブラン・ド・ノワールと続くのに、まず最初にロゼというこの日のオーダーに面食らったが、さらに驚いたのは、このロゼに合わせる料理がホワイトアスパラガスとホタテ貝だったこと。 ディルで香りづけしていることもあり、普通に考えれば繊細でハーブの香りも感じられるブラン・ド・ブランがより合いそう。しかし、実際にロゼと合わせてみると、これがまったく違和感がない。下に敷かれたひと切れのモルタデッラ(ボローニャの伝統的ソーセージ)がうまい具合に繋ぎの役割を果たしてくれたのだ。 そもそも全体の30パーセントをグラン・クリュのシャルドネが占め、そのミネラル感がホタテ貝ともうまくマッチ。これがグリーンアスパラガスだと難しい面もあったろうが、ホワイトアスパラガスなので、青々しい香りが赤い果実のフレーバーとぶつかり合うこともなかった。 もっともこの日、ベストの組み合わせは「ライムバターの香る的鯛のグリエ」とR.S.R.V.ブラン・ド・ブラン。だがしかし、それでは予定調和すぎてあまりにもつまらないではないか。