鮪のタルタルとローラン・ペリエ・キュヴェ・ロゼ
2018.05.31
ローラン・ペリエは今では数少ない家族経営のシャンパーニュ・メゾン。しかし、傘下のサロン=ドゥラモットやド・カステラーヌ、シャトー・マラコフを含めると、売上高は業界4位だ。 第二次大戦後、メゾンを急成長させたベルナール・ド・ノナンクールは2010年に他界したが、ふたりの娘が事業を継承。長女のアレクサンドラ・ペレイル・ド・ノナンクールが娘のルーシーを連れて3年ぶりに来日し、ロゼをテーマとしたディナーが東京ミッドタウンの「六本木テラス・フィリップ・ミル」で開催された。
ローラン・ペリエは数々のイノベーティヴなシャンパーニュを生み出したメゾンとしても有名である。バターやクリームを極力減らしたヌーヴェル・キュイジーヌの時代がやって来ると、ドザージュなしの「ウルトラ・ブリュット」を開発。フラッグシップのプレステージキュヴェといえば単一年のミレジメがお決まりのところ、3つの優良ヴィンテージをブレンドした「グラン・シエークル」をリリースした。ちなみにこのキュヴェの名付け親は、第五共和政の初代大統領シャルル・ド・ゴール。ベルナール・ド・ノナンクールは第二次大戦中、ド・ゴール将軍の側近としてレジスタンス活動についていたのだ。
そして今回のテーマである「キュヴェ・ロゼ」も、このメゾンならではの斬新な試みから誕生した。通常、シャンパーニュのロゼは白ワインに少量の赤ワインをブレンドして造られるが、ローラン・ペリエのロゼは、黒ブドウのピノ・ノワールを100パーセント用い、果汁に果皮を48~72時間漬け込むことで、美しいサーモンピンクの色調を引き出している。このマセラシオン方式でロゼを造るメゾンが少ないのは、二度にわたって発酵を重ねるため、色合いが変化するリスクが大きいから。しかし、ローラン・ペリエでは、色よりも香り。バスケットいっぱいに詰めた、獲れたての赤いフルーツの香りを最優先するため、マセラシオンを選んだのだ。
もっともこのキュヴェ・ロゼ、色合いも鮮やかなサーモンピンクでとても美しく、一般的なブレンド方式のロゼ・シャンパーニュに劣るところは何もない。
さて今回、このロゼに合わせてフィリップ・ミルが考案した料理は、前菜の「グロゼイユでマリネした鮪のタルタル」と、2皿目の「ブルターニュ産オマール海老のロティ」。3皿目に「香ばしく焼き上げた鴨胸肉と赤玉葱」も登場したけれど、こちらはロゼのフラッグシップで88年にアレクサンドラの結婚披露宴で初めてお目見えしたという「キュヴェ・アレクサンドラ」のための料理なので、今回は横に置く。
それで2皿目が終わったところで、真隣のアレクサンドラが「どちらが合いました?」と聞いてくる。彼女はオマール海老との組み合わせが気に入った様子だが、私の答えは1皿目の鮪のタルタルだった。鮪の新鮮さやレモンのゼストの爽やかさとキュヴェ・ロゼのフレッシュな風味がうまくバランスしていたうえ、グロゼイユ(赤スグリ)を使ったマリネが技あり1本! キュヴェ・ロゼの芳醇な赤い果実のアロマとこれまたきれいな同調を見せていたのである。タルタルの上に重ねられた薄切りの大根のシャキシャキとした食感も、シャンパーニュの溌剌とした勢いとハーモニーを奏で、完璧なマリアージュだったと思う。