SALON COLUMN

小さな大陸、シチリア❾

2018.05.18

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小さな大陸、シチリア❾

パレルモから南へ約60kmのところにあるコンテッサ・エンテッリーナをホームとするドンナフガータは、先述のプラネタなどと共にシチリアワインの近代化に道筋をつけた生産者の一つです。ドンナフガータとは“逃げた女”。18世紀初頭にブルボン朝の王フェルナンデス4世の妃、マリア・カロリーナがナポリで起きた革命から逃れてコンテッサ・エンテリーナに逃げてきたことに由来しています。19世紀半ばに遡る長いワイン造りの歴史を持つ同社に革新をもたらしたのは4代目のジャコモ・ラーロ氏。その娘で、現在のドンナフガータの顔と言えるジョゼさんの話によると、「旅が好きだった父は、外の世界に触れたことによって逆に自分の土地の可能性の大きさに気づきました」とのこと。1980年代半ばから畑の改革に着手、18種類の品種を試験的に栽培して、土地に合う品種を模索する一方、古い畑では剪定を見直し、収量をうんと減らして、ブドウの品質を高めました。醸造においては最新の設備とノウハウをアメリカから導入。数々のチャレンジはほどなくワインの評価というかたちで実を結びます。



ジョゼさんはシンガーとしても活躍している。




ジョゼさんの兄アントニオさんは新しい原産地統制呼称「DOCシチリア」の代表を務める。シチリアワイン界の顔役の一人だ。

現在ではシチリア東部のエトナやヴィットリアにも領地を広げているドンナフガータですが、同社のアイデンティティを語るとき忘れてはならないのが離島パンテッレリアのエステートです。パンテッレリアで造られる独特の風味を持った甘口ワインは、シチリアワインの多様性、懐の深さを語る上でも外せません。



パンテッレリア島の海辺に立つ教会。




岩場に生えるオリーブの樹の世話をする人。

シチリア島とアフリア・チュニジアの間に浮かぶパンテッレリア島は“地中海の黒い真珠”という異名を持つ島。漆黒の火山岩に覆われた荒々しい景観。それとコントラストを成す植物の濃い色合いと、海と空の抜けるような青。この島は、セレブリティたちがお忍びでやって来る島でもあります。シチリアは全体に風の強いところですが、パンテッレリアに吹く風の激しさは桁違いです。そのため、オリーブの樹もブドウも通常われわれがイメージするような姿では育ちません。ずんぐりとして低く、地面にへばりつくようなかたちに生長して風を凌ぐのです。



風を避けるため、臼状に掘られた地面に植えられたブドウ。




石造りの壁とドーム型の屋根を持つ島独特の家屋ダムーゾ。

この島でパッシート(収穫後、日干し、または陰干しして糖度を増したブドウで造られる甘口ワイン)に用いられるのはジビッボ(モスカート・ダレッサンドリア)という品種です。もともとはチュニジアから渡ってきた品種だと言われています。風に耐え、痩せた土地で踏ん張って果実を実らせるジビッボ。その果実をさらに凝縮させて造られるワインはデーツと塩の(ナツメヤシの果実)や干しイチジクを思わせる濃密な香りと塩っぽいミネラル感を持ち、深遠な味わい。



島の貴重なビタミン源であるオレンジを守るために石塀を巡らせたものは“ジャルディーノ(庭)”と呼ばれる。




石積みの段々畑“ムレット”では島の特産であるケイパーが栽培されている



ケイパーとオリーブがふんだんに使われたジャガイモとトマトの前菜。

パッシート・ディ・パンテッレリアの中でも最高品質と賞賛されるドンナフガータの「ベン・リエ」を2004年から2012年まで垂直試飲させてもらいました。



左から、ジビッボの辛口「リゲア」、遅摘みのジビッボで造る「カビール」、通常の収穫を発酵させたワインに陰干ししたブドウを加えて発酵させる「ベン・リエ」。



ずらりと並んだ「ベン・リエ」の8ヴィンテージ。

年によって糖度とミネラル感の出方に違いがありますが、デーツと塩のトーンは共通していました。07年のような良作年には飴っぽさが強く、04年のような天候不順で厳しかった年にはより複雑みが増すようでした。僕の好みは後者です。こういうワインは、食事やデザートと合わせるのではなく、1日のすべてが終わったあとに、小さなグラスにほんの少しだけ注いで、啜りながら物思いに耽るのがいいと思います。



ワインと語り合いたい夜に。




(つづく)

Photographs by Taisuke Yoshida



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