SALON COLUMN

赤身のビーフとナパのふたつのカベルネ・ソーヴィニヨン

2018.04.24



赤身のビーフとナパのふたつのカベルネ・ソーヴィニヨン

カリフォルニアのナパ・ヴァレーから造り手が立て続けに来日した。

 

まず最初が「フリーマーク・アビー」。前身のティクソン・セラーズまで含めれば、その歴史を1886年まで遡るナパでも最初期に設立されたワイナリーのひとつである。

 

カリフォルニアワインの実力を世界に知らしめた1976年のパリ・ブラインド・テイスティング、俗に言う「パリスの審判」でもカリフォルニアを代表して選ばれ、2017年に東京でまったく同じラインナップで対決が行われた際、70年のムートン・ロッチルドやオー・ブリオンを下しトップに輝いたのはなんと、フリーマーク・アビーのカベルネ・ソーヴィニヨン69年だった。

76年のテイスティングでは10位に甘んじたから、パリのかたきを東京で......というか、41年目
のリベンジを果たしたわけである。





ところで、パリスの審判にはあまり知られていないエピソードがひとつある。来日したエステートマネージャーのバリー・ドッツが明かしたところによれば、本来、1ワイナリーあたり赤か白のどちらか1本のところ、フリーマーク・アビーのみ赤と白の2本がエントリーしたそうだ。

 

主催者のスティーヴン・スパリュアは、それに先立つ73年の世界シャルドネテイスティングでフリーマーク・アビーのシャルドネが1位になったのを知り、ワイナリーにて購入。ところがそこで試飲したカベルネ・ソーヴィニヨンもおおいに気に入り、フリーマーク・アビーのみ赤白揃ってのエントリーとなったらしい。

 

そのため、76年にパリでブラインドテイスティングされた赤ワインはじつのところ11本あり、リストには掲載されていないが最下位の11位になったワインが存在する。それはシャトー・マルゴー。ヴィンテージは不明だが、他のワインから類推するに70年代初めのはずで、シャトー・マルゴー受難の時代。最下位も止むなしといえよう。

 

もうひとつのワイナリーはケイマス・ヴィンヤーズで、2代目のチャック・ワグナーが来日した。

 

ワイナリーはチャックの父、チャーリー・ワグナーが1941年に購入したブドウ畑に始まり、当初はナパ・ガメイやフレンチ・コロンバールなど、ジェネリックワイン用のブドウを育てていた。66年頃カベルネ・ソーヴィニヨンを植え、しばらくホームメイドでワインを造っていたが、71年にチャックが高校を卒業したのを機に、一緒にワイナリーをやらないかとチャーリーは尋ねた。もしもチャックが首を縦に振らなければチャーリーは土地を売り払い、オーストラリアへの移住を考えていたという。

 

結果的にチャックはワイナリー経営に同意し、72年に最初のカベルネ・ソーヴィニヨンを醸造。当時、ナパ・ヴァレーには上記フリーマーク・アビーも含めて15軒ほどしかワイナリーはなく、ワインの値段は1本たったの4.5ドルだったという。

 

翌年は収量を半分に落としてワインを造ったところ、これが大成功。今日のケイマス・ヴィンヤーズ・ナパ・ヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨンの礎となった。

 

ケイマスは76年のパリスの審判に選ばれることはなかったものの、樽選りしたワインから造られるフラッグシップの「スペシャル・セレクション」が75年に誕生。ナパ初のカルト・カベルネとなったこのワインが、もしもパリに持ち込まれていたらどういう結果がもたらされていたかと考えると感慨深い。もっとも75年ヴィンテージの発売は熟成期間も考慮すれば78年頃であったろうから、夢物語にすぎないのだが……。

 

フリーマーク・アビーもケイマス・ヴィンヤーズも、典型的なナパ・カベルネである。リッチでゴージャス。噛めるような果実味を持ち、タンニンは丸くソフトで、カカオの香ばしいアフターフレーバーが後を引く。

 

奇しくもフリーマーク・アビーは六本木の「ウルフギャングステーキハウス」で、ケイマス・ヴィンヤーズはグランドハイアット東京の「オークドア」でプライムビーフと合わせることになったが、まさしく教科書的マリアージュで、ナパの最上級カベルネ・ソーヴィニヨンと赤身肉との相性の良さを痛感した。赤身といってもたとえばバザス牛のように噛めば噛むほど味が滲み出るような身質ではなく、歯並びさえ良ければサクっと嚙み切れる柔らかなテクスチャーゆえに、咀嚼時間に応じた強いタンニンを必要としない。








昨今はナパであってもボルドー風にタイトでエレガントなスタイルのカベルネ・ソーヴィニヨンが増えていて、それはそれでじつに素晴らしい洗練度を感じる一方、やはり昔ながらのリッチでゴージャスなナパ・カベルネもなくなってもらっては困るのである。



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