時には極上の白ワインを
2016.11.01
時には極上の白ワインを
赤ワインには身体を温める作用があり、白ワインには冷やす作用があるそうだ。そのせいだろうか、暑い日に姉弟で打ち合わせをしていると自然と「白ワインでもちょっと飲もうか」という話になったりする。
白ワインを飲むと、火照った身体も、クールダウンするような気がする。だから、体温を超えるような激暑の日には、白をキリッと冷やして飲むのが我々の暑気払いだ。
しかし実は、私は5年間ほど、白ワインをほとんど飲まなかった時期がある。20代の初め、ワインを飲み始めて間もない頃は、さわやかで口当たりもよく、安くてもわりとおいしい白ワインが好きだった。ところが26、7歳の頃だったか、会食の席でたまたま出された濃厚なボルドーの赤ワインを口にして、ちょっとした衝撃を受けた。これまで飲んできた白ワインにはない奥深さ、複雑さが備わっていたからである。この時から私は白ワインに対する興味を急速に失ってしまい、買い求めるワインも赤ばかりになってしまった。
「その時飲んだ赤ワインは何だったんですか」と最近になって時々聞かれるのだが、銘柄はどうしても思い出せない。ただ、確かビンテージは82年だった。歴史に残るグレート・ビンテージ82年を、かなり若い状態で飲み、渋いとも思わず感激したことを考えると、格付けはAOCメドックあたりではないだろうか。それから十数年後、DRC「エシェゾー」85年との運命的出会いがあり、『神の雫』誕生となるわけだが、あのパンチの効いたボルドー赤ワインも、私にとっては意味のある出会いであった。
さてそんなわけで私は、白ワイン党から赤ワイン党にくら替えしてしまったわけだが、あるパーティーの席でクオリティーの高い白ワインに巡り合い、再び白ワインの底力を見直すようになった。そしてこの時はワインの名前を忘れないように、ラベルをはがしてもらい、透明フィルムに挟んで保存しておいた。その銘柄は、ドメーヌ・ルフレーヴ・ピュリニー・モンラッシェ一級畑「レ・クラヴォワイヨン」86年。ルフレーヴは超一流の白ワインの作り手だが、この一級畑は本当に見事である。かれんな白い花とりんご、グレープフルーツ、カシューナッツ、蜂蜜の香り。後味に火打ち石のようなしっかりとしたミネラル分が感じられ、白ワインながら濃厚で芳醇(ほうじゅん)である。しかし酸がキリッと効いているためベッタリとしたくどさがなく、飲み口は流麗。アフターには水蜜桃のような上品な甘味が残り、このへんでやめておこうと思っても、ついもう1杯と杯を重ねてしまう。これほどレベルの高い白ワインに巡り合ったのは、初めてだった。
そういうわけで、ルフレーヴを飲んで以降は「赤もうまいが、白ワインの世界も奥が深い」と考えが再び変わり、白ワインを時々飲むようになった。特に夏は、冒頭で書いたようについ白ワインに手が伸びる。シャブリやムルソー、ピュリニー村のさまざまな畑を飲んだり、たまにロワールの白なども開ける。
そして最近、あのルフレーヴの「レ・クラヴォワイヨン」05年を購入した。05年のブルゴーニュは、白ワインも素晴らしい出来ばえだ。私の記憶に鮮明に残る、白い絹のドレスをまとった貴婦人のような86年の「レ・クラヴォワイヨン」を思い出しつつ、05年のそれを飲むのがとても楽しみである。
神の雫作者のノムリエ日記 2007年09月13日より
■今回のコラムに登場したワイン
-
ドメーヌ・ルフレーヴ・ピュリニー・モンラッシェ一級畑 レ・クラヴォワイヨン
-
DRC「エシェゾー」85年
■関連商品
シュヴァリエ・モンラッシェ2012 Dルフレーヴ

¥75,000税別