SALON COLUMN

小さな大陸、シチリア❹

2018.04.05

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小さな大陸、シチリア❹

プラネタのワイン・リゾート&レストラン「ラ・フォレステリア」のテラス。


2001年の初夏、僕はシチリア西部のとあるワイナリーを訪ねました。そのワイナリーを勧めてくれたのは当時気鋭のワイン鑑定家としてイタリア国内でブレークしつつあったアレッサンドロ・マスナゲッティ氏(現ワイン評価紙「エノゲア」経営者)でした。「シチリアの若きリーダーに会ってくるといい」というのが彼の推薦の言葉でした。




メンフィのブドウ畑。

日差しが強烈で、風景がハレーションを起こしてしまいそうな日でした。ダム湖の穏やかな水面を望む緩傾斜に広がる、メンフィ村の石ころだらけの土地に、オリーブの林に隠れるようにしてブドウ畑が広がっていました。17世紀からファミリーが所有しているという農作業小屋を改装したワイナリーで僕らを待っていたのは、眼鏡をかけていかにも頭が良さそうなアレッシオと、穏やかな笑顔が印象的なフランチェスカ。彼らの輝くような若さと自信に満ち溢れた態度を今も鮮明に覚えています。2人はいとこ同士で、共通のファミリーネームは「プラネタ」でした。




アレッシオ・プラネタ氏。


この2人にサンティ・プラネタを加えた3人がシチリアワインの改革を目指し、先祖伝来の土地にブドウの苗を植えたのは1985年のこと。様々な品種を試すこと丸10年、95年にようやく醸造施設を建て、最初のワイン造りにたどり着きます。このファーストヴィンテージがいきなり国内で高い評価を受けます。98年には国内のワイン評価誌「ガンベロロッソ」が「プラネタ シャルドネ96」に最高評価(トレ・ビッキアーレ)を、またワイナリーには最優秀醸造所賞(ラ・カンティーナ・デッランノ)を与えます。このシンデレラ・ストーリーは、シチリアがプレミアムワインの産地として突如浮上したことを示す、ひとつの“事件”でした。





農作業小屋を改装したワイナリーのレセプション。



 

「コメータ」は南イタリアの固有品種フィアーノ100%の白。トロピカルなアロマにスパイシーなトーンが重なる。

僕と会ったとき、アレッシオは「僕らはイタリア半島の造り手よりも、カリフォルニアのワインメーカーたちの仕事に励まされたよ」と言っていました。確かに、暑くて乾燥したシチリアの気候は、カリフォルニアのそれと相通じるものがあります。また当時はナパやソノマの、果実味が前面に出て、アルコールが高く、パンチの効いたスタイルのワインが世界のスタンダードになりつつあった時代でした。それらと軸を同じくしたプラネタのワインは時流に乗ったのです。シラーやメルローがシャルドネに続きました。まずは国際品種のワインで、プラネタはシチリアワインの地位を一気に高めたのです。





「アラストロ」(左)はグレカニコ、グリッロ、ソーヴィニヨン・ブランのブレンド。熟れたメロンと白い花の香り。「プラムバーゴ」はネーロ・ダヴォラ100%。プラムの香りの軽快な赤。

 

2001年当時、アレッシオが語ったことがあと2つありました。ひとつは、「僕らの関心はネーロ・ダヴォラなどの固有品種に向かっている」ということ。もうひとつは、「シチリアの風土のポテンシャルをさらに追求するために、島内各地に畑を開き、醸造所を建てるつもりだ」ということ。



ノートのブドウ畑。石灰質の優勢な白い土壌が印象的。

その後、アレッシオの言葉は着々と実行に移され形になっていきました。シチリア南部のヴィットリアとノート、東部のエトナとカーポ・ミラッツィオに新たなエステートが続々整えられました。これらに"発祥の地"メンフィを合わせた5つのエステートで「小さな大陸」の多彩さを高いレベルで表現しています。固有品種への注力という点でもすでに成果が出ています。ノートの畑で実るネーロ・ダヴォラ100%で造られる「サンタ・チェチリア」は、ニューヨークの食通たちに高評されるなどあって、シャルドネと並ぶ同社の代表銘柄になりました。




ネーロ・ダヴォラの傑作、サンタ・チェチリア。黒オリーブ、チェリー、シダー、スパイスなどの複雑な香り。




エトナのエステートは2012年から。

20年以上にわたって、プラネタはシチリアワインの近代 化、世界への認知を牽引する役割を果たしてきました。現在、アレッシオは79社が加盟するシチリアワイン生産者協会(アッソヴィーニAssovini)のプレジデントを務めています。




「シチリア・アン・プリムール2017」の模様。

僕が最初に会ってから17年、おいしいシチリア料理のせいか、年齢相応の脂肪は蓄えたようですが、「知的な眼鏡くん」の面差しは当時のままです。毎年初夏にアッソヴィーニが世界中のジャーナリストを招いて行う「シチリア・アン・プリムール」というテイスティング・イベントには50社ほどの大小様々な規模の生産者が個性溢れる自慢のワインを持ち込みます。彼らの多くがプラネタの“事件”に励まされて、「大量生産の廉価ワインの産地」というイメージからシチリアを脱却させる働きをし、今日に至る──というのが、いささかザックリ気味ではあるけれど、シチリアワインの現代史なのです。(つづく)

 

Photographs by Taisuke Yoshida

◆シチリアワイン
プラネタ
パッソピッシャーロ 

 



 



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