SALON COLUMN

帆立貝のカルパッチョ&黒トリュフとシャトー・ローザン・セグラ1975

2018.02.26



帆立貝のカルパッチョ&黒トリュフとシャトー・ローザン・セグラ1975

ふた昔前のボルドー、しかも左岸のメドックともなれば、若いうちは閉じていてタンニンも硬く、飲みずらいワインが多かった。ところが現代のボルドーは若いうちから楽しめるものが多い。


先日、ボルドーワイン委員会のイベントのため来日したボルドー大学の准教授、ジャン・フィリップ・ロビーが語ったところによると、地球温暖化は晩熟なカベルネ・ソーヴィニヨンにとってポジティヴに働き、ここ15年で若くても調和のとれたワインに仕上がるようになったという。それでメドックでは、以前よりもカベルネ・ソーヴィニヨンの作付面積を増やすとともに、ブレンドの際の比率を高める傾向にあるそうだ。


世界的な需要でボルドーワインが枯渇し、オールドヴィンテージを口にする機会がめっきり減ってしまったが、先日、久しぶりに貴重な機会を得た。ラグジュアリーブランドの「シャネル」がボルドーに所有するふたつのシャトー、マルゴーの「シャトー・ローザン・セグラ」とサンテミリオンの「シャトー・カノン」のテイスティングディナーに招かれたのだ。シャネルとくれば舞台は当然、銀座の「ベージュ・アラン・デュカス東京」である。


ヴィンテージはボルドーのマジックナンバーである5のつく年が選ばれ、ローザン・セグラが2015年、1995年、1975年、カノンが2015年、2005年、1985年という5づくし。


中でも興味深いのが40年以上の熟成を経たローザン・セグラの1975年だが、その前にローザン・セグラというシャトーと、最も若い2015年の話をしておこう。


ローザン・セグラはマルゴー村に位置し、1855年の格付けで2級に選ばれたシャトー。それも後に1級昇格を果たすムートンの次という、高い地位にあった。マルゴーの多くの格付けシャトーがそうであるように、20世紀を迎えて品質低下。1994年にシャネルのオーナー、ヴェルタイマー家の所有になると、シャトー・ラトゥールから支配人のジョン・コラサを引き抜いて抜本的な改善に取り組み、かつての栄光を回復。14年に新しい支配人、ニコラ・オドベールを迎え入れ、現在に至っている。


したがって2015年は、新支配人のニコラ・オドベールにとって、事実上初のヴィンテージ(14年は前任のジョン・コラサとともに仕込んだ)。このワインのみ、まるでアペリティフのように料理を添えずに提供された。もしもこれが20年前、あるいは30年前だったら、「勘弁してください」と涙を流して懇願したに違いない。グレートヴィンテージのローザン・セグラを、収穫からわずか3年で口にするのは拷問以外のなにものでもないからだ。


しかし、グラスに注がれた2015年のローザン・セグラ、若々しさは感じられるとはいえ、その芳醇な果実味がキメの細かいタンニンを包み込み、あっけないほど心地よく飲めてしまった。これが現代のボルドーの特徴である。


さてそれでは、40年遡る75年のローザン・セグラはいかに。ワインが注ぎ始められてまず驚いたのは、ボトルが通常の円筒ではなく微妙に角ばった、むしろ直方体に近い形状なこと。当時のオーナーは英国のワイン商で、ローザン・セグラに何か独自性を求めたのかもしれない。


色調はマホガニーがかり、香りは複雑。湿った森の下草、シガー、シャンピニヨン、そして黒トリュフが絡み合う。口に含むとほど良い柔らかさ、しなやかさ。果実味が完全にドライアウトすることなく、繊細でデリケートな余韻を残す。


70年代のこの頃はボルドー受難の時代。現在と比べれば実力の半分も出し切れてはいないだろう。このワインを84年に試飲したロバート・パーカーのポイントは、なんと55点。それではワインがあまりに気の毒。30年以上経った今、少なくとも80点は与えてよいと思う。


しかし、どこか物足りなさが残るこのワイン、特別にあつらえた料理と組み合わせることにより、俄然光り輝いた。この日、ベージュの小島景シェフと、ローザン・セグラのお抱えシェフ、ジャン・バティスト・ドポンスのコラボレーションによって、75年のローザン・セグラのために用意された料理は「帆立貝のカルパッチョと黒トリュフ」。




シーフードにボルドーの赤ワインがけっしてNGでないことは、以前に生牡蠣とラ・ドゥモワゼル・ド・ソシアンド・マレで実証済み。すでにタンニンもこなれてテクスチャーは柔らかく(先のパーカーのコメントによると、当時は相当タニックだったらしい)、帆立貝の甘みがより生き生きと感じられる。フレーバーの点ではワインの熟成香と黒トリュフが完全にシンクロ。やや短めに感じられたワインの余韻を、一段階引き延ばしてくれたのだ。


ワインそのものを評価すれば、95年のローザン・セグラ、2005年のカノンに軍配が上がるが、マリアージュの点では、75年のローザン・セグラと帆立貝のカルパッチョと黒トリュフが、この夜最高の調和を見せていた。



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