チェコ・ワインを少しだけ❷
2018.01.26
チェコ第2の都市ブルノのレストラン「パヴィロン」でのペアリング・ディナー、4杯目のワインはヴィナストゥヴィ・ハームというワイナリーの「フランコフカ2008」。フランコフカはドイツでブラウフレンキッシュとして知られている赤ワイン用品種です。ソムリエ氏の計らいで、このワインは、同一品種で5年若いワイン(「ゲツベルグ フランコフカ2013」)との飲み比べをさせてもらいました。ソムリエ氏によると、2つはヴィンテージの違いのみならず、造りの違いもあるとのこと。バルサミコ酢のソースを添えた鳩のローストに合わせて、新旧2つを少しずつ試してみました。

鳩のローストとフランコフカ。
若い方はフローラルな香りにハーブのトーンが交じります。口当たりも軽快で、気分を明るくしてくれるような感じ。一方、熟成した方はプルーンやチェリーリキュールの香りの後、オリエンタル・スパイスやバナナ、さらには香木のような奥ゆかしく複雑な香りがどんどん上がってきて、言葉で表すのが追いつかなくなるほどです。聞けば、こちらはイタリア・ヴェネトのアマローネと同じような製法で造られているとのこと。つまり、収穫したブドウを陰干ししてから醸造するということです。どうりで、香り、質感ともに妖艶さがたっぷりと感じられるわけです。ドイツでもブラウフレンキッシュで同様の造りを行なうところがあるのか、寡聞にして僕は知りませんが、このハームのフランコフカにはすっかり心を奪われてしまいました。ちなみに、この店での価格は日本円にして2800円ほど。あまりのお値打ちぶりに僕は思わず「うーむ」と唸ってしまいました。
6杯目(フランコフカの若い方を5杯目とカウント)は、ガラというワイナリーの「ピノノワール2014」。フレッシュなイチゴやコリアンダーシードの香り。ふっくらとした飲み口、豊富なタンニンはブルゴーニュ・ポマールのワインを彷彿とさせます。ソムリエ氏によると、樹齢75年の古木に実るブドウから造られているとのこと。お店での価格は約4500円。チョコレート・ババロアと黒スグリのシャーベットのデザートまでこのワインを引っ張りましたが、優雅で落ち着いた気分にしてくれる良いワインでした。

ヴァルチツェ城の地下セラーでは試飲しながらチェコ・ワインについて学ぶことができる。
6つのワインを通して、おぼろげながらチェコ・ワインの概観が見えてきました。泡、白、ロゼ、赤と幅広いスタイルのワインが造られていること。品種については隣接するドイツ、オーストリア系の品種が多く栽培され、フランス系品種ではシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノノワールなどがポピュラーであるらしいこと。ハイブリッドに面白い品種があるが(後述します)、固有品種は見られないこと。クオリティについては、ソムリエ氏が頑張ってチョイスしてくれたこともあって、世界的なスタンダードに充分適うものであること。ただし、「心を奪われるようなワイン」ということになると、その数はかなり限られているようでした。
リヒテンシュタイン家の夏の別荘レドニツェ城の装飾階段。モラヴィア地方を訪ねる際には必見の場所のひとつだ。
金色の麦畑が広がる雄大な眺めは、「モラヴィア」と聞いて人々が思い浮かべるものの代表格。
Photographs by Taisuke Yoshida