SALON COLUMN

スペインの「アンチエイジング・ワイン」 その6

2017.10.19

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スペインの「アンチエイジング・ワイン」 その6

スペインのワイン法(原産地呼称制度)で最高位に君臨するビノ・デ・パゴというカテゴリーは日本語では「単一ブドウ畑限定高級ワイン」という説明がなされます。わかりやすく言うと、ユニークなテロワールから生まれる、際立つ個性を持ったカリスマ的なワインのこと。今回ご紹介するベラ・デ・エステナスは、32ヘクタールある畑のすべてがこのビノ・デ・パゴに認定されています。

 

フェリックス・マルティネスさん。2013年にビノ・デ・パゴに認定された畑で

 

エステートは海抜720メートルの丘陵地に広がる

 

当主フェリックス・マルティネスさんが家業に入ったのは1994年のこと。ボデガは1914年からの歴史があり、先代のフランチェスコ・マルティネスさんはスペイン醸造家協会の会長を務めた、業界の顔役でした。しかし、先代の時代、ここで造られるワインはボトル詰めされることなく、バルクで売られる安ワインでした。そんな状態からの脱却を目指し、先代はシャルドネやカベルネなどの国際品種を植え、造ったワインをボトル詰めして市場に打って出ました。「1980年代初めのことです。しかし、その頃すでに国際品種のワインは飽和状態にありました」とフェリックスさん。先代の挑戦は実を結ばなかったのです。跡を継いだフェリックスさんは、当時まったく評価の振るわなかったボバルに注力することを決意します。98年には熟成に堪えるボバルのワインをリリースしました。

 

ベラ・デ・エステナスの領地は海抜720メートルの丘陵地に広がっています。32ヘクタールの畑のうち23ヘクタールをボバルが占めます。土壌は石灰質に富み、地味は痩せていて、地下深くにナグロ川の伏流水が流れ、小粒で凝縮した果実を実らせるのに好適な環境とのこと。ベラ・デ・エステナスのワインの品質はこのテロワールとブドウ樹の樹齢が大きく寄与しているとフェリックスさんは言います。

 

ボバルの可能性を信じ、熟成タイプのワインを造ってきた

 

「ボバルを取り巻く状況はこの5、6年で激変しました」とフェリックスさん。「それはトニ・サリオン氏の力に負うところが大きいと思います」。トニ・サリオン氏は1999年にムスティギーリョというボデガを起こし、ボバルのワインで脚光を浴びている造り手です。サリオン氏はDOウティエル・レケーナの枠から飛び出し、独自のルールでワインを造ることのできるビノ・デ・パゴで勝負する道を選びました(このボデガの所有する畑、エル・テレラーソはビノ・デ・パゴに認定)。フェラン・アドリア・シェフが「エル・ブジ」を閉める際、お別れパーティにサリオン氏の「キンチャ・コーラル2000」を使ったことからも、彼がボバルのワインの名声向上に一役買っていたことがわかります。サリオン氏の活躍がフェリックスさんを勇気づけました。

 

3つのヴィンテージの「カサ・ドン・アンヘル」。2000年物でさえ、熟成のピークはまだまだ先という印象

 

重厚で苦みのある「カサ・ドン・アンヘル」にはビターチョコレートがよくマッチする

 

フェリックスさんの「カサ・ドン・アンヘル2006」をテイスティングしました。このアイテムは樹齢80年以上の古木から良作年にのみ造られるスペシャルキュヴェです。セメントの発酵槽で発酵の後、フランス製のオーク樽で18カ月熟成。収穫から11年を経たとは思えない若々しいクリムゾン・レッド。よく熟れた赤系・黒系果実の香りに黒オリーブ、キノコ、黒鉛、黒コショウの香りが交じり、複雑で広大。コントラバスの調べを聴くようなイメージが湧きます。口の中では辛口で厚みがあり、いかめしささえ漂います。余韻も強く、長く、官能的です──。

 

レケーナのホテル、カサ・ドナ・アニータの〈カフェ1900〉で食べた豚耳、腸詰など。ボバルのワインのつまみに。

 

20年ほど前、政府関係の文書に「ボバルは熟成に向かない」と明記されていたそうです。フェリックスさんはボバルのポテンシャルを信じ、丁寧な仕事をすることで、そのスティグマ(いわれなき汚名)をすすいだと言えるでしょう。

 

Photographs by Yasuyuki Ukita

Special thanks to Consejo Regulador DOP Utiel-Requena

 



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