ジョージ・デ・ラトゥールとリブロース
2017.09.25
カリフォルニアの「ボーリュー・ヴィンヤード」から、ホワイトハウスディナーへの招待状が届いた。「あのドナルド・トランプが私に何のよう?」と訝しむも、当然ながら心当たりはない。エアチケットが同封されてる様子もないし、エアフォースワン(大統領専用機)でお迎えか? まさか。招待状をよく見れば、会場は麻布台の東京アメリカンクラブになっていた。
ボーリュー・ヴィンヤードは1900年、ナパ・ヴァレーのラザフォードに設立されたワイナリー。多くのワイナリーが閉鎖に追い込まれた禁酒法時代も、教会にミサ用のワインを提供して生き残った。創業者はフランス人のジョルジュ・ド・ラトゥール(英語読みでジョージ・デ・ラトゥール)。その夫人、フェルナンドがラザフォードの景色を見た瞬間、「Beau Lieu!」(美しき場所)と感嘆の声を上げたため、その土地に開いたブドウ園をボーリュー・ヴィンヤードと名付けたという。
1938年、後にカリフォルニアワインに革命をもたらすアンドレ・チェリチェフがコンサルタントとなり、36年からワイナリーで造られていた「プライベート・リザーブ」をブラッシュアップ。カベルネ・ソーヴィニヨンをベースに、それまでカリフォルニアで行われていなかったオーク樽による熟成を施したこのワインは、創業者の名を付け世に送り出された。「ジョージ・デ・ラトゥール・プライベート・リザーブ・カベルネ・ソーヴィニヨン」(以下、ジョージ・デ・ラトゥールと略す)。カリフォルニア初のカルトワインの誕生であった。
ジョージ・デ・ラトゥールは1940年代に時のルーズベルト大統領に見初められて以来、ホワイトハウスでの晩餐会では欠くべからざる存在となり、歴代大統領の御用達となっている。そうした理由から今回、ホワイトハウスディナーと銘打ったイベントが開催されたのだ。ちなみに料理の方もホワイトハウスのティピカルなメニューという。
シーザーサラダから始まり、続いてロブスターのビスク、鴨のロースト・はちみつ風味、デルモニコステーキ、最後にデザートのベイクドアラスカ。メインに肉料理2皿という点が、いかにもアメリカらしい。
今回は件のジョージ・デ・ラトゥール以外にも、さまざまなボーリューのワインが登場したが、やはりここはジョージ・デ・ラトゥールだけに的を絞ろう。
このワインは1900年にジョージ・デ・ラトゥールが最初に購入した、ラザフォードの西斜面にある畑、BV1とBV2のブドウから造られている。ちなみにBV2のお隣は、ロバート・モンダヴィが同ワイナリーのフラッグシップ、カベルネ・ソーヴィニヨン・リザーヴの骨格として用いている、オークヴィルのト・カロン・ヴィンヤードである。
2013年ヴィンテージは、非常に濃厚な色調で見た瞬間から圧倒される。香りも凝縮感たっぷり。煮詰めたブラックベリーやカシス、それにビターチョコレートのニュアンス。深煎りのコーヒーを思わせる焙煎香が芳しい。口に含めばみっちりとした果実味とキメの細かなタンニン。ゴージャスなナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンそのものだ。
最近の懐石料理化したフランス料理だと、こうしたタイプのカベルネ・ソーヴィニヨンはなかなか合わせづらいところがあるものの、相手が単に焼きっぱなしのステーキならば話は別である。ちょっと鼻につく焙煎香も、遠火で炙ったリブロースのスモーキーなフレーバーと調和する。肉質は柔らかく、丸みのあるタンニンとのバランスで考えると、咀嚼時間も含めてちょうどよい按配。
またこの日はジョージ・デ・ラトゥールのバックヴィンテージとして1991年も供された。このヴィンテージは73年に引退したアンドレ・チェリチェフが、再びそして最後に手がけたワイン。ちなみにこの時、チェリチェフ90歳。その3年後に他界している。
1991年はなめし革や森の下生え、タバコの葉など複雑な熟成香。「あ~、もうひと口、鴨を残しておけばよかったのに」と後悔した。