SALON COLUMN

スペインの「アンチエイジング・ワイン」 その2

2017.09.21

006

スペインの「アンチエイジング・ワイン」 その2

ボバル種のワインを求めてまず訪ねたのは、セッロガリーナというボデガ(ワイナリー)です。オーナーのサンティアゴ・ベルニア・マルティネス氏は薬剤師として50年ものキャリアを積んだ人。しかし、ワイン造りへの愛着が捨てがたく、2006年に畑を、08年には醸造所を購入。マルティネス氏の名刺に刷られた「ビティクルトール(ブドウ栽培家)」という言葉に彼の覚悟のほどが窺えます。9haある畑のうち8haにボバルが植えられています。一部には樹齢90年を超える古木もあるとのこと。ボトル詰めしてリリースしているのはボバル100%で造る1銘柄のみ。生産量は年間わずか16800本とのこと(日本未輸入)。

 


元薬剤師のサンティアゴ・ベルニア・マルティネスさん

 


セッロガリーナ唯一の銘柄、「セッロガリーナ・ボバル」

 

「ボバルのワインを造るのは野生の馬を飼い馴らすようなものです」と“元薬剤師”は言います。十分に手をかけ、細心の注意を払って調教しないと人を乗せることはできないということでしょうか。「収穫したブドウは低温マセレーション(浸漬)の後、発酵に移ります。この時、1日に2度ポンプオーバー(液循環)を行って、上に浮かんだ果帽を常にウェットで柔らかい状態に保ちます。樽に移した後は、樽を定期的に回転させることで、タンニンを丸くするようにしています」どうやら、ポイントはタンニンの出現の仕方にあるようです。

 


熟成樽のラックは樽を容易に回転させることができる作りになっている

 

「セッロガリーナ・ボバル2012」を試飲させてもらいました。ブラックベリー、カランツなどよく熟れた黒系果実の香りがたっぷりと立ち、ドライフラワーのトーンが追いかけてきて、複雑味を与えています。口の中では、スケール感が感じられ、ドーンと低重心。タンニンは甘く溶け込んでいます。高いアルコールを感じますが、かといって飲み疲れする感じがしないのは、ワインが丸みを帯びているからでしょうか。飲み込んだ後に、かすかに鉛筆の芯を思わせるスパイシーな風味が残ります。“野生の馬”のような印象は、そのワインの中にはありませんでした。それはきちんと調教され、走り込みもして均整のとれた馬体を持つ、艶やかな毛並みの馬。全体のバランスを取ってなお存在感のある酸には熟成のポテンシャルも感じられ、“名馬”誕生の予感すらありました。

 


ボバルの蕾。この段階でも果粒の密度が高いことがわかる

 

レケーナ村の郊外にある「三度松」。この松の前で3度願い事をすると叶えられるという

 

2軒目に訪ねたのは1992年に設立されたフィンカ・サンブラス(輸入元:ウミネコ醸造株式会社)です。600ヘクタールの広大な農園にはオリーブやアーモンド、大麦などさまざまな作物が植えられています。ブドウ畑は75ヘクタール。前出のセッロガリーナと違ってこちらは多品種展開で、テンプラニーリョやカベルネ・ソーヴィニヨン、シュナンブランなどに混じってボバルが重要なポジションを占めています。「ボバルは果粒を大きくしたくないので、石ころが多くて水はけの良い傾斜地に植えました」と経営責任者のアントニオ・サオネロ氏。

 

経営責任者のアントニオ・サオネロ氏

 

乾いた風が吹き抜ける丘の上の地中海松の木陰で試飲をさせてもらいました。「タラバ」はボバルとピノノワールを50%ずつブレンドして造られたロゼ。聞けば、東京・神楽坂のレストラン〈エスタシオン〉のオーナー、野堀貴則氏の「飲みごたえのあるロゼを」との要望に応えて生まれたワインだとのこと。淡い玉ねぎ皮の色合いが儚い花びらを思わせます。フレッシュな果実香に適度なミネラル感。いかにも日本人の嗜好に合いそうなロゼです。

 

日本人シェフの求めに応じて生まれた「タラバ」

 

ボバル100%の「ボバル2014」は若々しくてスレンダーな仕立て。「ボバルの持つ美しい色味はきちんと出したいが、タンニンは過度に出したくない。そのために畑では芽数を減らし、葉を大きく保つことでブドウの“日焼け”を防ぎます。ボデガではマセレーションの時間を長くしすぎないよう、細心の注意を払います」とサオネロ氏。その場にはいませんでしたが、このボデガの醸造責任者は指導者としても名高いニコラス・サンチェス氏。彼のボバルに対するアプローチは「ジューシーさを前面に出すこと」だと、試飲を通じて感じました。

 

フィンカ・サンブラスのボバルはジューシー

 

ワイナリー・ドッグの「モモ」はなんと秋田犬!

 

レストラン〈ロス・クビコス〉のボカデージョ

 

生ハムと干し鱈の入ったサラダ。ロゼや軽快なタイプのボバルなら、こういった料理にも合わせることができる

 

Photographs by Yasuyuki Ukita

Special thanks to Consejo Regulador DOP Utiel-Requena



――――――――――  おすすめ記事一覧  ――――――――――

―――――― おすすめ記事一覧 ――――――



ヒッピー、クラブ、そしてワイン❸


ヒッピー、クラブ、そしてワイン❷



PAGE TOP
8,000円(税抜)以上ご購入で送料無料キャンペーン中